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一瞬、背中から血が出ているのかと錯覚する。
けれどよく見てみれば、血だと思ったのは、肩甲骨の辺りから腰にかけていくつもの曲線から成る、紅い紐状の痣だった。
それはまるで、生きた蛇が背中を這っているよう。
「……っ」
あまりのおぞましさに、何も言葉を発することが出来ない。
「…気持ち悪いでしょう」
逢坂が、小さく笑った。
俺は、フォローすることが出来なかった。
事実、目の前に広がる光景は、気持ち悪いという表現が一番似合っているように思えたからだ。
「…俺の身体はね、呪いに侵されているんだ」
「……のろ、い?」
呪い。
現実世界ではあまり聞き馴染みのない言葉に、少し戸惑ってしまう。
逢坂は口元に笑みを浮かべたまま、そっと目を伏せた。
「…ゆっくり、じわじわと身体が蝕まれていって……最後に待っているのは、死」
「死……」
すぐには、その言葉の意味を理解できなかった。
それは今の自分には、余りにも非現実的な話のように思えたからだ。
厄介なのはね、逢坂はふうっと小さく息を吐き出して、続ける。
「……この呪いは自分では解けないんだ。呪いを解くには、呪いをかけた張本人を見つけて解いてもらうか、もしくはそいつを殺すか。どちらかの方法しかない」
「…こ、殺すって…」
何だか実感が湧かない言葉ばかり並べ立てられて、頭がこんがらがってくる。
これは本当に、現実なのだろうか。
もしかして、自分は夢の中にいるんじゃなかろうか。
そんなことを考えていて、ふと浮かんできた一つの疑問を、躊躇いながらも口にする。
「…じゃあ、もしも仮に、呪いをかけた奴を見つけられなかったら…」
「…ああ、死ぬだろうね」
笑顔を崩さず、さらりと言ってのける逢坂に、軽く目眩を覚えた。
普通の人ならば、自分が死ぬと分かっていたら恐怖に怯えたり、パニックになったりするだろうに。
この人には、死の恐怖というものが無いのだろうか。
「…林野君」
逢坂の手が俺の手に触れる。
そのままきゅっと指が絡まる。
「…俺だって、このままむざむざと死ぬ気はないよ。だから、君の力を借りたいんだ」
「…俺の…?」
逢坂は首を縦に振って、手をぎゅっと握ってくる。
「…近い内に、そいつは君の前に必ず現れる。君のその、特殊な匂いに惹かれてね」
「……俺の、匂いに」
逢坂は軽く頷いて、目を合わせてくる。
その瞳の奥にあるのは、揺らめく炎。
「……奴が、現れるまで。それまで君を守らせてほしいんだ。その間君は、霊とどう対処していくか、方法を見つければいい」
思わず、息を呑む。
逢坂の目が、余りにも本気だったからだ。
ずっと、どこか夢心地でいたけれどーー今の逢坂の言葉で、ここは夢じゃなく現実なのだと思い知らされる。
「…これは、君にとっても悪い話じゃない筈だ。君も俺も、このままだらだら過ごしていたら…待っているのは死なのだから」
「…っ」
今まで、死について意識したことなんてなかった。
まだまだ先だろうと、たかを括り、考えることすらもしなかった。
けれど実際に、死という鋭い鎌を喉元に突きつけられた今、味わったことのないような恐怖が腹の底からせり上がってくるのを感じていた。
「ーー分かった」
ぽつりと、小さく言葉が漏れる。
その話の真偽は分からない。けれど自分には、断る理由なんてどこにもない。
「…その話、のるよ」
「良かった、そう言ってくれて」
逢坂は、俺の返事に力強く頷いて、綺麗な笑みを浮かべた。
「ーー改めて。これからよろしく、林野君」
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