アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
29
-
ふと、逢坂の動きが止まり、その口から素っ頓狂な声が漏れる。
その場の雰囲気にそぐわない、間の抜けた声に、拍子抜けしてしまう。
「…お、逢坂?」
「……」
逢坂は暫くそのまま固まっていたかと思うと……ふっと振り向いた。
その顔に浮かんでいるのは、驚きと戸惑い。
「……消えた」
「え……?」
「霊が、消えたんだ」
「消え、た…?消えたって、どういうことだよ」
逢坂は首を横に振って、目を伏せた。
「…俺にも、分からない。さっきまで、確かにそこにいたのに……姿も、気配も消えた」
「そん、な…」
…信じられない。
逢坂が言うには、女の霊はまるで煙のように……いつのまにか消えてしまったらしいのだ。
ーー消えてしまった。
それは文字通り、この場から消えてしまったのだろうか。
それとも、…成仏して、この世から消えてしまったということなのだろうか。
いや、成仏はしてない筈だ。
自分は、彼女を未練から、救えなかったのだから。
ということは、一体どこへ消えたのだろう。
もしかして、もう別の人に取り憑こうとしてたりして…。
ーーなんて、考えていると。
「……逢坂?」
不意に、逢坂に右手首を掴まれた。
そのまま強く、痛いほどに握られて、自然と眉が寄せられる。
「っいてぇよ…!なんだよ、いきなり…!」
「…それは、こっちの台詞だよ」
逢坂の声には、明確な怒りの感情がこめられていた。
いつも怒っている人より、いつもにこにこと笑っている人が怒る方が、怖い。
その言葉が正しいことを、改めて思い知らされた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 128