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「え、楽しみ…?」
意外な言葉が飛び出してきたことに驚きながらも、どういうこと、と聞いてみる。
逢坂は少しはにかみながらも、実はね、と微かに微笑んだ。
「…俺ね、そういう所に行くの、初めてなんだ」
「……え、そうなのか…?」
「うん。…幼い頃から一度は行ってみたいとは思ってたんだけど、危ないから行っちゃだめだって、祖母にずっと止められてたんだ。だから、少しだけ……楽しみ」
「へえ…」
意外だ。
そういう所に行ってみたいと、思っていたなんて。
でも確かに、逢坂みたいに霊が見えたなら、色々な霊を見ることができて、もしかしたら……楽しいのかもしれない。
自分には見えないから、分からないけれど。
「…君も、初めてなんでしょう?ふふ、楽しみだね」
ーー何だかんだ言って、一番楽しみにしているのは……逢坂だったりするのかも。
なんて思いながらも、無邪気なその笑顔を見ていると、こちらまで気分が高揚してきて。
さっきまではあんなにも嫌だったはずなのに、逢坂と話しているうちに、少しずつ楽しみになってきている自分がいる。
「……あ」
そんな風に色々と話している内に、いつの間にか逢坂と別れる場所まで来ていたみたいだ。
「…ここまで、だね」
「……そうだな」
何だか少し名残惜しくて、曲がるのを躊躇ってしまう。
そんな俺を、逢坂はじっと無言で、見つめてくる。
ーー逢坂は。
自分とこうやって別れることを、……少しでも名残惜しいと、思ってくれているのだろうか…。
そんなことを考えると、胸がきゅうっと締め付けられて、益々、彼に背を向けるのを躊躇してしまう。
「…林野君」
ふと、逢坂の手が頭に置かれる。
かと思うと、そのままくしゃくしゃと撫でられて。
「…また明日、学校で。……ばいばい」
それだけ言うと、逢坂はくるりと背を向けて、歩いて行ってしまった。
その背中が小さくなっていくのを見届けた後ーー一気に体の力が抜けて、膝からずるりとその場に崩折れる。
「……っな、なんなんだよ、あれ…」
ーー何これ、何これ。
心臓の鼓動が、いつもよりすごく早い。
身体に上手く力が入らないし、それに……今すぐ溶け落ちてしまいそうなほど、身体が熱い。
「……ずるい、だろ…」
あれは、不意打ちすぎる。
あんな至近距離で、あんな柔らかな笑顔浮かべられて、頭撫でられたら、誰だってこうなるに決まってる。
その後、俺がちゃんと立ち上がって、家に帰れるようになるまでに少し時間を要したのは…言うまでもない。
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