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「っ、あ……」
ドクン、と心臓が大きな音を立てる。
今、何が起こったのだろうか。
すぐには理解出来なかった。
恐る恐る音のした方に目を向ければーー灰色の地面の上に、小ぶりの植木鉢の破片が散乱していた。
「…大丈夫ですか?怪我は?」
「あ…」
ふと、隣から聞こえてきた柔らかな声に、はっと顔を上げる。
すると、こちらを心配そうに覗き込む、黒いスーツを着た若い男性の姿が目に入って。
「…っだ、大丈夫、です……」
ドクドクと早く脈を打つ心臓を抑え、勤めて平静を装いながら、言う。
この人が助けてくれなかったら、今頃…。
そう思うと、恐怖にぞわりと体が震え、更に呼吸が早くなる。
「…あ、あの……っありがとう、ございました…」
唇が震えて上手く喋れなかったが、何とかそう絞り出せば、男性はいえいえと首を横に振り、爽やかな笑みを浮かべた。
「あなたが無事で、何よりです。……それでは、僕はこれで。気を付けて下さいね」
そう言うと、男性は去り際に軽く会釈をして、くるりとこちらに背を向け、歩いていく。
大袈裟かもしれないが、仮にも命を助けてもらったのだから、もっときちんとお礼を言うべきだ。
そうは思ったけれど、その小さくなっていく背中を見ていると、安堵からか身体の力が抜けて、結局その場に座り込んでしまった。
「……っは、ぁ…」
ドクドクと激しく脈打つ心臓を抑えて、ふうっと息を吐き出す。
そして、ゆっくり何度も深呼吸を繰り返す。
そうすれば、徐々に落ち着きを取り戻していく。
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