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「……怖いんだ、すごく」
「……怖い?」
逢坂の俺を抱く手に、力が込められる。
強く、息が出来ないほどに。
「…君も、俺の前から消えてしまうんじゃないかって…」
「お、れが……?」
俺が、…消える?
そんなお伽話みたいなことあるわけないだろ、と笑い飛ばそうとしてーー逢坂の手が震えているのに気づいて、はっと口を閉じる。
「…さっき、君の右手に刻まれてた“印”を見たとき……心臓が、止まりそうになった。だってそれはーー俺の背中に刻まれてる、紅い蛇の印とそっくりだったから」
「……っ!」
紅い、蛇の印。
いつか逢坂の家で見た光景が、鮮明に、脳裏に蘇る。
肩甲骨の辺りから腰にかけていくつもの曲線から成る、紅い紐状の痣。
まるで、生きた蛇が這っているようだと感じた、おぞましい痣。
それが、自分の手首にも、刻まれていたのだ。
ぞく、っと背筋を悪寒が駆け抜ける。
じゃあ、あの時自分の手を引いて助けてくれた、黒いスーツの若い男は。
「間違いなく、奴は俺達の側にいる。それも、……君を狙ってるらしい」
「っそ、…んな…」
身体から、力が抜けてゆく。
縋り付くように逢坂の服を掴んで、ぎゅっと握り、せり上がってくる恐怖を払拭するべく、軽く頭を振る。
「…奴が、どうして君を狙っているのか……分からない。だから、怖いんだ。あの時みたいに、俺の知らない内に君が奴の毒牙にかかってしまったら、そう考えると…」
逢坂は、可哀想なくらいに怯えて、所々声を震わせながら、押し出すようにして言葉を紡ぐ。
それを見ていると、逢坂が今、本当に弱っていることが分かる。
ーー怖がってちゃ、駄目だ。
自分が恐怖で怯えてる時、逢坂は優しく言葉をかけて、宥めてくれた。
だから、自分も。
「……逢坂」
震えるその身体を、いつも逢坂がしてくれるように、ぎゅっと強く、抱き締める。
「…心配するなよ、大丈夫。俺は、そんなに簡単に、お前の前から消えたりしないから」
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