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◇◇
「…い、おい涼太ってば」
「…え、……」
誰かの声で、はっと我に帰る。
目の前には、怪訝そうな表情でこちらを覗き込む、高坂の顔が。
「…何だよ、ぼーっとして」
「あ、ごめん……ちょっと考え事しててさ。…で、何?」
「何って……。だから、体調のことだよ」
体調?
一体、何のことを言っているのだろう。
黙り込む俺に痺れを切らしたのか、高坂はほら、と続きを話し出す。
「覚えてないのか?土曜日の日、お前具合悪いってドタキャンしただろ」
「ああ…!そのことか」
逢坂とケーキを食べに行く前に、流石に何も言わないでドタキャンするのは失礼だと思い、体調が優れないことにして、高坂にメールで行けないと伝えたのだった。
色々あって、すっかり忘れていた。
「あー……うん、大丈夫。ごめんな、約束してたのに」
「いいよ。体調崩したなら、仕方ないだろ。また今度行こうぜ。今度は、ちゃんと体調整えとけよ」
「ああ、分かってる」
ーーふと、逢坂のはにかみ笑顔が、脳裏をよぎる。
『だから、少しだけ……楽しみ』
そういえば逢坂も、心霊スポットに行くのは初めてだから楽しみだ、って言ってたっけ。
自分があの時、あんな花に目を奪われなければ、何のことはなかったのに。
そんなことを思うと、ちくりと罪悪感が胸を差した。
「……逢坂さ」
「えっ」
突然出てきた、“逢坂”という単語に、びくりと肩が跳ねる。
余りにも過剰すぎるその反応に、高坂は驚いたように固まり、それから数秒の後、小さく吹き出した。
「はっ、お前、過剰反応しすぎだろ……。どれだけあいつのこと好きなの」
「っ、そんなんじゃねえし…!ただ、突然名前が出てきたから、びっくりしただけで…」
「あー、はいはい。…仲良いな、お前ら」
「ッいや、違うから…!」
赤くなり、必死に弁明する俺を見て、逢坂はくすくすと可笑しそうに笑う。
顔の熱を放出させるべく、ぱたぱたと手で扇いでみれば、逢坂は益々愉しそうに笑い声を漏らした。
「はー、おもしろ。涼太イジるの楽しいわ」
「…こっちは全然楽しくないんだけど」
恨みを込めて、じとっとした視線を送ってやれば、高坂はまた、笑みをこぼして。
「ごめんごめん、つい。………でも、なんか…お前らって本当に仲良いんだな。少し…妬けるかも」
「…え…?」
「…俺も、頑張らないとな。盗られないように、さ」
にこ、っと微笑んだ高坂の瞳が、何だか少し怖く見えて、少しの間固まってしまう。
ーー今の、どういう意味だろう。
考えようとして、逢坂の手が、それを遮るように俺の肩を軽く叩く。
「…そろそろ、チャイム鳴るから戻るわ。あ、今日も一緒に帰れないから、よろしく」
「ん、…分かった」
このところ、高坂は用事があるらしく、帰りの会が終わるとすぐに教室を出て行ってしまう。
何の用事かと聞いても、いつも適当にはぐらかしてくるあたり、あまり他人には言いたくない用事らしい。
まあ、人には皆、踏み込まれたくない部分はあるだろうし、無理に踏み込むべきじゃないだろう。
そう思いつつ、自分も席へ戻る。
ふと窓から外を見てみれば、今にも降り出しそうな、分厚い灰色の雲が、空を覆っていた。
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