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いや、本当は分かってる。
利用価値なんて言葉で留まるほど、簡単な想いじゃないってこと。
肉親を失った時のように、彼もまた失うかもしれないと恐怖に苛まれたのも。
自分の命より、彼の身体を傷付けたくないという思いの方が大きかったのも。
彼の涙を見て、胸がぎゅっと締め付けられるような切なさを覚えたのも。
ーー全部、自分にとって彼が、“大切”な存在であるからに他ならない。
きっと、自分が思っている以上に。
「……うん、これでお終い。…ごめんね、気持ち悪かったでしょう」
「ん、……っは、…大丈、夫…」
地面に背をつけたまま、浅い呼吸を繰り返す彼を、そっと抱き起こしてやる。
くたりとこちらに体重を預け、頰を赤く染める彼は、なんだかとても、可愛く見えた。
衝動的にその髪に手を伸ばし、頭を撫でてやれば、彼は目を閉じて嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ていると、時が止まったかのような錯覚を覚えるほど、穏やかでいい気分になる。
ーーもし、彼に自分の思いの丈を伝えたならば。
もっと間近で、この笑顔を見ることが出来るのだろうか。
自分だけが、彼の笑顔を独占出来るのだろうか……。
「…っなぁ、逢坂……」
「…あ、…なに?」
彼の声で、ふと我に帰る。
自分は今、何を考えていたのだろう。
慌てて変な考えを打ち消し、顔を上げれば、互いの視線が交錯した。
長い睫毛の奥で、ガラス玉のような瞳が、惑うように揺れていた。
「……俺、死ぬのか…?」
一瞬、言葉に詰まった。
本当ならすぐに否定してやるべきなのだろうけど、…今の自分では、彼を救うことが出来るのか分からない。
もしかしたら、…出来ないかもしれない。
「…っ俺、覚悟出来てる、から……だから、本当の事教えてくれ」
ふ、と微笑んだ彼の肩が小刻みに震えているのを見て、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
ーー本当は、怖いはずなのに。
それを必死に押し殺して、気丈に振る舞って。
同じだ、今の自分と。
いつ訪れるかと死の恐怖に怯えて、でもそれを悟られないように、笑顔で振舞う。
一見強そうに見えて、本当は脆くて弱い。
少しつつかれれば、直ぐにバランスを崩して、倒れてしまう。
「……死なせないよ、絶対に」
はっと目を見開いた彼の手を取り、指を絡めて、きゅっと握る。
自分と同じだからこそ、分かる。
覚悟が出来ているなんて、嘘。
本当は誰よりも、他人の助けを望んでいる。
「……君は、俺が守ってみせる。だから、…安心して」
大切なものをもてば、その分失う時が辛いのは、充分すぎるほど分かっているはずなのに。
それでも、願ってしまった。
彼を死なせたくない。
この命を懸けてでも、守り抜きたいと。
彼の瞳に、じわりと涙が滲む。
「…信じて、いい…?」
頷く代わりに微笑むと、彼はぽろりと涙を零して、小さく笑った。
「…ありがとう、信じてる…」
「……うん」
握っていない方の手で、彼の身体をぎゅっと抱き寄せる。
あいつの力は強大で、鈴をもってしても祓えるかどうか分からない。
けれど、きっとやれる。
彼を救いたいという気持ちがあれば…きっと。
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