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◇◇
「…可哀想に。あの子が今度の……らしいよ」
「あの子よ。逢坂さんの家の子供。……だなんて、まだ小さいのに可哀想よね」
「わたしのおかあさんが、おうさか君のこと、かわいそうな子供だって言ってたよ」
「逢坂君、どうか気を落とさないで。今回のことは可哀想だけど、先生は君のこと、忘れないから」
すれ違いざまに、影でこそこそと、あるいは面と向かって。
状況は様々であるけれども、近所のおばさんも、クラスの女の子も、先生も皆言う事は同じ。
俺を見るたび、ちょっぴり眉を潜めて、心苦しそうな顔をして。
ーー“かわいそう”。口を揃えて、そう言う。
「…ねえ、かあさま」
包丁で野菜を切っている母様に、横から声をかける。
母様は手を止めず、なあに、と声だけを投げかけてくる。
「かわいそうって、なに?おれ、かわいそうなの?」
ーーぴた、っと母様の手が止まった。
固まる母様を他所に、心に浮かんだものを全て吐き出すように、一気にまくし立てる。
「…おれ、みんなに言われるんだ。かわいそうだって。…どうして?どうしておれ、かわいそうなの?」
「……」
母様は、黙ったままだった。
光を浴びて鋭く光る包丁を見つめながら、何を言うべきか、必死に考えているようだった。
やがて、母様はふっと包丁から視線をあげると、機械的な不自然な動きで、こちらへと顔を向けた。
そして、俺の目を見て……にこ、っと微笑んだ。
「…鈴、…ここにいたら火を使ったりして危ないから、あっちへ行っていなさい」
はぐらかされた。
その事実に、幾分かの悲しみを覚えながら……ああ、と幼心に悟る。
母様は自分に、何かを隠しているのだと。
そしてそれは、自分が知ると、母様にとって都合の悪いことが起きるのだと。
「……ごめんね、鈴」
「ううん。おれこそ……じゃましちゃって、ごめんなさい」
湧き上がってくる感情を必死に抑え込みながら、母様が浮かべているのと同じような笑みを浮かべた。
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