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プロローグ
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ㅤ忘れられない過去がある。
二年前のことなのに、まだ昨日のことみたいに夢に見る。
忘れたいのに忘れさせてくれない記憶は、これからも一生離れることは無いー・・・
◇
現在午前2時。寒い冬のこんな時間に呼び出され、肌にはビュンビュンと風が打ち付ける。有馬は家の近くの道路沿いに立っていた。フェンスを乗り越えると、すぐ大きな海が広がっているようなそんな場所。
呼び出した張本人は集合時間になっても来ない。『五分遅れる』とメールが来たから、ドタバタしてるんだろう。きっと、寝ていたに違いない。
こんな時間に呼び出すから悪いんだ。海を見ながら顔を膨らませていると、やっと後ろから焦ったような足音が聞こえてくる。遅い、もう25分も経った。
怒っている意味も込めて振り向かないでいたら、駆け足だったのがゆっくりになり、突然背中を押された。フェンスから飛び込んだ体に水しぶきが上がり、海面に叩きつけられる。
さっきまで風が寒いと思っていた温度が嘘みたいに今の方がずっと寒い。身体中がナイフで刺されたみたいにズキズキと痛くて、肩まである水に体が急速に冷えてくるのがわかる。
足は地面に付かず、泳げないから必死にもがいていた。登ろうにも高さのある壁があるから無理だ。
さっきまで自分がいた場所には誰かが立っている。
目に海水が入り染みる。暗いし、目が痛くて涙も出るので視界は最悪だったけど、そこにいるのが男だということは分かる。自分があの場所から落とされたのだと悟ったのはその時だった。
男はこちらに向かって何かを叫ぶと、どこかに足早に去っていった。後ろ姿がぼんやりと小さくなっていく。
なぜだ、なぜなんだ。なぜ自分がこんな目に合わなければならないと、叫び、もがき、それから泣いてしまう。
怖いよ、寒い、誰でもいいから助けて。
そんな叫び声が聞こえたのか、去っていった影が急に戻ってきて、海に向かって身を投げた。波に揺られながらも腕を強く引っ張られ、胸の中に抱きしめられる。この冷たい温度の中の暖かな温もりに安心感に包まれ、少し肩の力を抜いた。
だけどそれはほんの一瞬。自分を海に落とした本人に助けられるのが癪で腕の中でもがく。動かないように言われては、手を離されるのに、自分からその手に縋る。
助けるなら何で落とした。泳げないことを知っているくせにと、そう言いたいのにガチガチとなる歯からは海水しか吐き出されない。
少し高いところから落ちたので、海から上がるには別の場所に行かなければならず移動する必要があった。
手を引かれながら海を泳ぐが、有馬は泳げないし、暴れるのでなかなか進まない。そんな中でも徐々に水は2人を蝕んで、動きは鈍くなる。そんな状況下で最悪なことに雪も降ってきた。
目の前が霞み、かけられる声も次第に遠くなっていく。そして遂に気を失い、それから目を覚ましたのは二週間後の病院のベッドの上だった。
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