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11 来栖 響也
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あれだけ早くに寝たのに、起きたのは変わらず7時ぐらい。いつもより気合を入れて顔を洗い、制服を着る。少しぶかぶかで着られている感はあるが、きっと年が経つにつれて高校生に見える位には似合う予定だ。
「新入生はこちらです。並んでくださーい。」
ザワザワと満開した桜が騒ぎ、花びらに埋もれながら呼ばれた場所に向かう。高校は家の近くにあり、歩いて行ける距離にある。入学説明会の時に高校には来ていたので迷わずに真っ直ぐこれた。上級生に連れられ、通りすがりに見た体育館は中学と違って倍以上広く、人数も桁違いに多い。
講堂で入学式を行うと言うので、人に酔いそうになりながらも指定された席に座ると、やはり緊張していたのか手の平が少し震えていた。
去年は寒い体育館で硬い椅子に座って過ごしたのに、今年は暖房がついて暖かい上に、ふかふかの椅子にも座っている。快適だ。
早めに学校に来ていたので、周りにはまだ人が少ないが、少ない中でも友達と来ているのか、その場のほとんどが誰かとしゃべっていて居心地が悪い。それになんだか自分の顔を見られている気がする。
実際にはそんなことは無かったのだけど、少し周りに対し縦過敏になっていた。
徐々に人が集まり始め、右隣の席に前髪が長くボサボサな眼鏡をした女子が座る。猫背になって、さっきからずっとゲームをしている。
誰に喋りかけることもなく、1人でいるこの猫背女子にどこか親近感が沸き、ソワソワしてしまったけど、思いっきり舌打ちをされてビクッと体が震える。逃げたい。でも固まって動けない。
それから度々発せられる舌打ちに耐えていると、今度は左隣の席に背の高い茶髪の男が座る。キョロキョロとして、どこか不安そうだ。
「おはよう。」
そしてこちらを向き、1人で喋り出した茶髪男。気味が悪いなと思いながら、早く入学式が終わるように祈る。高校でもひっそり暮らそう、空気になって中学より楽しく過ごそう。
「なあってば。あんた、聞いてる?」
目の前で手を振り始めた男を凝視しながら、もしや自分に言っているではないかと、顔色を変える。
「おはよう、ございます?」
「だよな。そう、あんただよ。」
有馬は自身を指さしながら首を傾げると、茶髪は大きくため息をつく。
「無視されてるかと思った。」
悲しそうな顔をする茶髪に謝っていると、急に入口の方からたくさんの女子が入って来る。こちらを見て何かに気づくと、悲鳴をあげて押し合いっこをしながら近づいてくる。
「来栖響也(くるす ひびや)くん?だよね?今年、主席合格したんでしょ?すごいね。」
顔が丸っこいが、目つきが鋭い女の子が意を決したように茶髪男の前に出る。後ろの子達は「頑張れ」と小さく呟いていて、先頭の子が声をかけると様々に「凄いね」「頭いいね」などの声が聞こえる。
そんな声に有馬は驚いていた。この高校はかなり偏差値が高く、トップをとる人は毎年偏差値70を軽く超えるというので、一度会ってみたかったのだ。
先ほどとうってかわり、尊敬の目で見つめる有馬だったが、女子たちを見た来栖と呼ばれる男の機嫌は最悪だった。汚いものでも見るかのような冷たい目。
「だからなに?あんた達に関係ないよね?ウザイからどっかいってくんない。」
きつい言葉に女子たちは顔面蒼白し、散り散りにどこかにいってしまう。僕もそんな会話に顔を引き攣らせさながら、少し距離を取り顔を逸らす。でも、浅い息遣いが聞こえてまた見てしまった。彼はその場を去った女子達を睨みつけていたけど、どこか様子がおかしい。
「・・・うっぜぇ。」
過呼吸になりかけている。強気な態度だけど、汗の量も普通じゃない。
「えっと、くるす?くん、こっち来て。」
戸惑いながらもどこか大人しい来栖くんの手を取り講堂を出る。いつもならこんなことをしないが、彼の顔色の悪さは酷いものだった。流石にそんな人を放っておけるほど冷徹でもない。
校舎裏の静かな場所を見つけ、小さな段差に座らせる。下を向く来栖くんの肩は震えていて、有馬は来ていたブレザーをかけてあげた。
「ごめん。」
弱々しげに謝る姿は、声をかけてきた人とは別人みたいだった。呼吸はだいぶ落ちついたけたど、ここに来るまで凄くしんどそうだった。
「まだここにいて。保健室行くなら連れていくけど、多分こっちの方がいいと思うので。僕、入学式いくけど、先生に言っとくから、落ち着いたら来て。」
僕は女性恐怖症の知り合いがいる。人によって症状は違うが、過呼吸になったり、吐きそうになったりする。来栖くんも同じような反応をしていたから多分、彼も女性恐怖症だ。保健室の先生が男性の可能性は限りなく低い。それなら、誰もいない中庭に連れていこうたと思ったわけだ。
小さく頷いたのを見て、急いで講堂に戻る。時間はギリギリで、席に座ると猫背女子からまた舌打ちが聞こえる。恐る恐る目線を向けるとゲームをカバンにしまっているところだった。
長い挨拶が終わり、入学式が終わると、クラスに案内された。僕は1年4組3番で、一番じゃないことに安心しながら、来栖響也という文字が見えた。席が近かったから同じクラスかと思っていたが予想はあっていたらしい。猫背女子の姿も見えて、知り合ってもないのに嬉しさを感じた。
彼はまだ来ていなかったが、自己紹介中に教室に入ってくる。僕はその時既に自己紹介を終えていて、実は通学中に練習していたのでバッチリだ。
来栖くんの顔色はよく、落ち着いていて、僕のブレザーを持ちながら言われた席に座る。最後に自己紹介をして全員が自己紹介を終えた。
「今日から一年よろしく、担任の田中です。」
それからクラブについてと、委員会についての話をし、僕は現代文係となった。来栖も有馬と同じ係で、有馬が手を挙げた後にすぐに手を挙げていた。
説明も終わり、今日は終わりだというので帰る準備をしていると、来栖がくんブレザーを持ってやってくる。
「これ、ありがとう。あと、色々助かった。」
明るげに話す来栖くんは最初話した時と同じ抑揚で、元通りになって安心だ。ブレザーを受け取り、帰ろうとすると、一緒に帰ろうと誘われる。
後ろで彼に話しかけようと集まっていた女子をみて、虫除けかと、頷いた。
お礼を言われるけど、帰るといっても何を話したらいいかわからないから任せきりになってしまった。でも、よく喋ってくれた来栖くんに頷いたり、たまに相槌を打つぐらいでよかったので楽だった。
途中の大通りで別れ、早足で家に戻る。そのままカフェに赴き、青さんがいなくて落胆したけど、カフェラテを頼んでほのぼのと落ち着いた。
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