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39 仲直り
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「柳っ、急に走り出してどうし」
後ろから柳の後を追うように走ってきた来栖は教室の惨状をみて言葉を失った。教室の真ん中には大団円が出来て、その中心には有馬と散らかった髪がある。
「ってめぇ」
来栖が地を這うような声で、有馬の髪を掴んでいた相良に近づき、襟を思い切り引き寄せる。そのまま左手で殴ろうと腕を振り上げたが、竜胆さんの言葉でその手は止まった。
「そこで殴ればあなたは退学かしら?有馬と関わるとあなたまで不幸になるみたいね。」
来栖は竜胆さんを睨みつけるけど、彼は肩を竦めただけで嘲笑うように来栖を見下す。
「さっさと有馬を連れて屋上にでも行ったら?先生が来たらお互い迷惑でしょ?」
その声をきっかけに、相良もその周りも少しづつ散り散りになる。
柳が無言で駆け寄ってきてブレザーを頭にかけてくれる。そのまま抱き上げるように肩に担がれ、教室から出た。ブレザーで隠された視界で前は見えないけども、階段を登っていることは分かる。竜胆の言葉通り屋上に向かっているらしい。
目的地に着いたらしく、地面に下ろされる。ブレザーを取られると切られて短くなった後ろ髪を優しく触られた。
その時、来栖も駆け足で登ってきて、有馬と柳を見て安心したように腰を下ろす。
「柳。」
来栖が柳を促すように背中を二、三度軽く叩いて名前を呼ぶ。少し口を噤んでいたけど、すぐに開けて「ごめん。」と言った。
「俺も、ごめんな。」
来栖にも謝られるが、どう返したらいいのか分からなくて戸惑うしかできなかった。
「叩いたこと、まだ怒ってるっすか?」
ずっと気にしてくれたのか、左頬を撫でる柳は初めて見る表情をしている。
「なんて言うか、れんれん、全然俺のこと信頼してくれてないなって寂しくて。靴箱の見たらそんなむしゃくしゃしてたのがバーって溢れ出て八つ当たりしてしまいました、ごめんなさい。」
最後は早口になって謝られる。
「蓮がなんも話してくれないって拗ねてただけだから。許してやって。」
信じられない言葉に涙がこぼれた。これが世にいう仲直りということでいいのだろうか。それはこんな一言二言で終わるものなのだろうか。
ー仲直りしたいんだろ?お金持ってこいよ。
また、あの頃の記憶が蘇る。
「な、なんで泣いて・・・え、え、来栖、どうしよう。」
混乱した柳は来栖の膝を両手で揺らしている。大丈夫と言ってその手を払っているけど、少し来栖も焦っているみたい。
「れんれん、ごめん。ほんとにごめん。いくらでも謝るから泣かないで。」
ずっと謝り続けている柳に笑おうとするのに笑顔が作れない。しゃくりあげてるからまともにも喋れない。
来栖は暫く僕の顔を眺めていたけど、その視線は髪に向かっていて切られた髪を気にしているようだった。
「髪の毛こんだけグチャグチャに切ってるならちゃんと切り直さないとダメかもな。」
どこか怒りのこもった声で「あいつら絶対許さん」と拳を握りしめている。殴るとか殺すとか物騒な単語が聞こえてきただけに少し心配だ。
「俺が切ろうか?」
そう言ったのは柳で、下に弟と妹が一人ずついて、よく切ってあげてるらしい。
「れんれん、俺がかっこよくしたるから、心配はしなくていいべ。」
気遣うようなこわごわとした様子に早く落ち着かないとと思うのに、それでも、優しく髪に触れてくれる柳に涙が止まらない。泣かないでって思うなら優しくしないで。余計に泣いてしまうから。
「れんれん、俺はね、ちゃんと言ってほしい。本当に言いたくないことは言わなくていいから靴箱みたいな事があったら絶対に言ってほしい。」
もう吹っ切れたの、はちゃんと僕を見据えて前を向いている。優しい言葉をかけてくれる柳だけど、やめてほしいとも思うし、やめてほしくないともおもう。でも、やっぱりかけてほしい。
「っぐず。うん。」
鼻を啜り、ありがとうと言おうとしたのに結局言えなかった。矛盾が絡待って身動きが出来ないんだ。
「じゃあ、今一番言いたいことはなんすか?」
そういった柳に、有馬も涙を吹く。このままじゃダメだ。僕も柳に言葉を返さなきゃ。でも、今、一番に柳に言いたいことは一つしかないんだけどいいのかな。
「・・・ふふ、柳に髪を切ってもらうのは遠慮したい、かな。」
「ぶっ」と笑う来栖の隣で、「は?」と乾いた柳の声がその場に落ちた。
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