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----side 真島 『友達になってください』
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あの塾での屋上以来、俺は自分とは全く正反対の彼を目で追うようになってしまった。
理由はたぶん、自分にないものをもっているから。
きっとそれだけなんだ。
自分に言えないことを、自分が出来ないことを、彼はきっと出来るんだというただの思い込み。
幼少の頃から時間を管理され縛られてきた俺が、初めて見た自由の形だったんだ。
きっと彼に似た性格の人は普通にたくさんいて、あの場所にいたのが彼じゃなくても…なんてそんなことはもう何百回も考えた。
けど俺の頭の中はもうあの男の子でいっぱいで、それからは彼のことが知りたくて知りたくて必死だった。
彼の名前、通ってる学校、塾でのクラス、友達関係…とあげればキリがないが、それこそストーカーの如くずっと聞き耳を立てていた。
塾の講師にまで聞いて、なんとか希望の高校を聞けた時は、一瞬で俺もそこに行くと決めていた。
自分の何から何まで全て、彼が中心になっていく感覚。
そう、初恋だった。
彼の友達になりたい。
少しでも目に映りたい。
もう一度、話がしたい。
けれどあの屋上以来、彼の周りにはいつだって友人がいた。
男の子も女の子も、たくさん。
彼が一人になるタイミングを狙っていたが、どうしてもそれは訪れなかった。
話がしたいと、その目に映りたいという気持ちだけがどんどん積もりに積もっていくだけで、勇気のない俺の中学時代は、彼を遠くから見ているだけで終わってしまった。
レベルが低いと両親に猛反対された高校だったが、それでも特進科があったおかげでなんとか入学することを認められた。
入学式の時に彼の姿を見つけた時は、心の底から歓喜した。
なんて話しかけよう。
塾一緒だったよね。
でも俺のことを忘れていたら…それでもいい。
それなら一から友達になろう。
ともかく、なんとしてでもまた話がしたい。
一先ずあの屋上で、彼に言われてしまった『もっさい』という姿を捨てよう。
彼に少しでも相応しい自分になろう。
近づきたい。
彼が好きだ。
大好きだ。
本当に、大好きなんだ。
気付けば、四六時中彼のことで頭がいっぱいで、どうしようもなく勝手に溺れていた。
けれど高校生になっても彼の周りにはいつだって、男も女もたくさん友人がいて結局話をすることはできなかった。
彼を目で追う生活がずっと続き、彼がどれほど周りに人気のある子なんだということを思い知らされ、自分なんかじゃ到底釣り合わないんだということを嫌というほど知った。
けれど高校二年になったある日、その時はようやく訪れた。
夕暮れ染まる校舎。
部活後、忘れ物をしてしまったと気付き校舎へ急いだ。
人気のなくなった校舎は普段の賑やかさを忘れ、遠くで微かに聞こえる吹奏楽部の音色だけが耳に届いていた。
自分のクラスへ急ぎながら、経路にある彼の教室前を横切る。
いつも通り何気なくその教室を覗いてしまってから、ドキリと大きく心臓が跳ねた。
――彼がいる。
いつもなら周りに人がいるのに、今日は一人だった。
そう思ったら、心の準備も出来てないのに俺はその教室に足を踏み入れてしまっていた。
『友達になってください』
そう言おうと思った。
それでよかったんだ。
だって、俺なんかが彼の恋人になんてなれるはずがない。
本音を言って気持ち悪がられるくらいなら、隠していたほうがいい。
友達として、少しでも俺を見てくれるだけでいい。それで充分なんだ。
そう思っていたのに、彼の前に出てその瞳と目があったら、自然と涙が溢れてしまった。
今までたくさん我慢していた、大好きで大好きでどうしようもない気持ちがこぼれ落ちてしまった。
伝えずにはいられなかった。
「好きだ。…大好きなんだ。これ以上はもう、隠せない」
言ってから酷く絶望的なほどに怖くなって、そこからはあまり記憶がない。
けれどなぜか彼が受け入れてくれたから、俺は今ここにいる。
俺は膝の上で寝ている彼の髪の毛をそっと撫でる。
絶対に起こさないように、本当に触れるか触れていないかの距離で。
今日の屋上の優しい風ですら、どうか彼の安眠を妨害しませんようにと祈って。
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