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「真島、別れようぜ」
屋上で言い忘れたから、部活前にまた俺の顔を見に来たという真島にちょうどいいから言った。
真島は固まったように動かない。
あれ、俺の言葉分かってる?
「えっと…待って。ちょっと待って。ちょっと…」
言いながらぼろりと真島の目から涙が溢れた。
あ、泣かせた。
まあでも女じゃあるまいし、男の涙に同情する必要はないか。
とはいえ、こんな教室前。
さすがに学園の注目の的、みんなの真島くんをこの場で号泣させるわけにはいかない。
何より俺が悪いって絶対に噂が立つ。
仕方なく俺は真島の手を引っ張って、屋上へと連れてきた。
別れるって言ったらなんだかんだ「分かった」で終わると思ったのに、まさか泣かれるとは。
そういや告白の時にも泣いてきたし、別れるときにも泣かれると予想しなかった俺も俺か。
「…俺、何か高瀬くんに嫌われる事したかな。…あ、お弁当ホントはまずかったとか…」
「いや、弁当は神だった。マジで」
「じゃあ何で…悪いところあったら、全部直すから…っ」
そう言ってぐすりと鼻を啜る真島。
まさか、こんな別れ際めんどくせー女子みたいな事言ってくるとは思わなかった。
「…えーと、俺付き合う時にわがままで気まぐれって言ったよな?別にお前に非はないからさ」
この時の事を思って、付き合う時に用意しておいた言葉がここでようやく役に立つ。
これで諦めるだろうと思ったが、真島の涙はボロボロと止まらないままだった。
よく俺なんかのためにそこまで泣けるな。
「それは聞いたけどっ…。でもごめん、別れたくない。こうしたほうがいいとかあったら、なんでも聞くからっ…」
縋り付くような真島の言葉に、あーこれどうすっかなと頭で考える。
こういう女子何人もいたけど、決め手はなんだっけ。
「あー、そうだ。俺好きなやつできたんだよな。だからお前とはもう付き合えない」
そうそう、これだ。
これ言えば大抵女子はキレる。
キレてそんな奴こっちから願い下げだくらいの、なぜか突然上から目線になるアレだ。
「…いい。高瀬くんが他に好きな人たくさんいたっていいんだ。高瀬くんと話せなくなるのは嫌だよ…っ」
少し驚いた。
マジか。真島は二股OK派かよ。
さすがモテる奴は言うことが違うな。
なんて自分の中で冗談混じりに誤魔化そうと思ったが、さすがにこれは茶化したらまずいやつだ。
俺のことを本気で好きというのは知っていたはずだが、まさか真島がここまで食い下がってくるとは思わなかった。
つまり適当な言葉じゃ、こいつは交わせない。
「…悪いけど、他に付き合いたいやつがいるんだよ。俺は一人しか好きになれねーから」
トーンを一つ落として、真面目な声音で言う。
真島の目は見れなかった。
俺にだって一応罪悪感くらいある。
だが言うこと言って聞かないやつには、ガチなことを言うしか無い。
真島は何も言わなかった。
というか絶句してるんだろう。
ならここが引き際と俺は勝手に思って、「じゃーな」と真島を見ないまま踵を返す。
これで終わりだ。
そもそも俺は男と付き合う趣味なんてねーし、まあ学園のアイドルの真島だからこそ好奇心で付き合ってみた。
こいつは予想以上に面白い反応をしてくれたが、それでも長く付き合うモンでもないしいつかは別れる時が来る。
ならそれは早いほうがいいし、それが今ってだけだ。
別れたあとは顔を合わせたら気まずいかもしれないが、別に同じクラスでもなきゃ学科も違うしなんてことはない。
真島だって時間が経てば、黒歴史だったと恥じる時もくるだろう。
「――嫌だっ」
突然、背後から強い力で抱きしめられた。
歩いていたのもあって、力強く引き寄せられたそれに舌噛むかと思った。
「――おいっ、お前…」
「ごめんっ、ごめんね。本当に別れたくない。大好きなんだっ…本当に、本当に大好きだから――」
縋り付くように後ろからぎゅうと抱きしめられて、息が詰まった。
というかマジで男の力全開で苦しいんだが。
「…お願い。もう一度俺を見てくれないかなっ…。絶対、絶対に大事にするからっ…」
なんだろう。もはやこれは何か俺に変な執着を持っているんじゃないか?
子供の頃から気に入っていた毛布を、大人になっても捨てられない的な。
せっかく真面目に返してやったのに、なんかもうめんどくさくなってきた。
「…あーもう。お前男のくせにグスグス泣くなよな」
真島の拘束から逃れようともがいてみたが、手は緩まなかった。
離したら終わりだとか思ってんだろう。
子供か。
仕方なく俺は体を捻ると、真島と対面する。
思ったより近い位置にあった真島の顔からは、まだ大粒の涙が溢れていた。
こんなズブズブに泣いてるくせに、イケメンが台無しになっていないのはある意味すごい。
「ごっ…ごめん。でもっ…俺っ」
つか高校生にもなる男がしゃくりあげながら泣くなよな。
こんな大泣きしてる奴、小学生以来見たことねーぞ。
はぁ、と一つため息を吐くと、俺は服の袖でそっと真島の涙を拭ってやった。
ビクリと真島は驚いたように一度体を強張らせたが、目を閉じて俺のなすがままにされていた。
少し拘束が緩んだところを見計らって、再び口を開く。
「…しょうがねーな。じゃあもう一度考えるから。とりあえず保留でいいか」
もういっそ保留にしてフェードアウトでよくね。
自然消滅ってやつ。
時間が立てば、コイツも目が覚めるだろ。
半ば投げやりな俺の言葉に、真島は真っ赤な目をしてしゃくりあげながら何度も頷いていた。
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