アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
----side 真島『大好きな人と大好きな友達』
-
「奏志っ」
ユキの声が聞こえる。
あれ、俺どうやって屋上から戻ってきたんだっけ。
そういえば途中で女の子に声掛けられたりしたけど、総スルーしてしまったような気もする。
やばい、なんか目頭が熱くなってきた。
「ちょ、奏志!大丈夫?もしかしてアイツになにかされた?」
目の前にいたユキに体を揺さぶられて、はっと我に返る。
が、すっかり意気消沈してしまった体には力が入らず、俺は呆然と口を開いた。
「…いや、俺がしちゃった…」
そう言ったら、目の前の青い瞳が大きく揺れた。
ああ、ついに俺。親友にも引かれてしまったかもしれない。
「し、ししちゃったってっ…な、何をっ」
どこか震えた声でユキが俺に聞く。
「抱きしめて…額にキスした」
思い出したら、カッと身体中に血が上る。
そうだ、俺触っちゃったんだ。
どうしても我慢出来なくて、つい手が出てしまった。
だって名前呼ばれて、あんなに可愛くこっち見てとねだられたら、そんなの我慢出来るはずがない。
妄想の中ではもう何百回も繰り返していた光景だけど、実物の破壊力は半端なかった。
「ああ、なんだ。それだけか。はあ…びっくりした」
「…えっ、それだけって」
ドン引かれるかと思ったが、ユキはそんなことなく静かに息を吐き出しただけだった。
ユキと言っているけれど、本名は結城貞男(ゆうきさだお)。
かっこいい名前していると思うのに、絶対に下の名前で呼ばないでと言われてユキと呼んでいる。
ユキとは入学当時からの仲で、少し人見知りな俺に最初から愛想よく話しかけてくれた一人だ。
本人もよく言われると言っているけど天然さんで、だけどとても世話焼きな一面もある。
祖母がイギリス人のクウォーターらしく、見た目はまるで女の子みたいに綺麗な子だ。
そんなユキに高瀬くんへの思いを気付かれたのは、高校一年の秋のことだった。
どうしてバレたのかはわからないけど、そこからはずっと、ユキにだけは高瀬くんの相談をしている。
いつだって真剣に俺の話を聞いてくれるから、勝手に俺の方は親友だと思っている。
「なあ、奏志。失態をしてしまったならこの際いい機会だし、高瀬くんはやっぱりやめたほうがいいと思うんだよ。あいつ奏志の事絶対真剣に思ってないよ。あんな奴――」
「…なんか、珍しいね。ユキが人の事をそんな言い方するなんて」
「あ、いや…」
いつだってふわふわとした感じのユキからは、あまり聞かない言葉だ。
ユキは育ちが良いのもあるけど、元々すごく努力家で頭がいい。
だから特進科に比べて勉学に力を入れてない普通科を、きっと理解しづらいんだと思う。
けれど学科と人柄とは、また別の話だ。
これは俺のエゴだけど、大好きな人のことを、大好きな友達にもきっといつか理解してもらえたらいいな、なんて思う。
「あいつ…じゃない、高瀬くんは、奏志の行動にどんな反応だったの?」
そう聞かれて、俺は先程の光景を思い出してさっと顔を青くする。
「…お、驚いてた。すごく」
「うん、それで?」
再び思い出したら、抱きしめた時の感触がリアルに蘇ってきて、ゾクリと足先から頭の先まで何か駆け抜けていった。
そう言えば俺、別れ話の時も高瀬くんのこと抱きしめたんだっけ。
けどあれは、抱きしめたというよりは縋り付いたという感じだったし、なによりあの時は必死すぎてそれどころじゃなかった。
一度思い返したら、思ったより小さくて華奢だった体も、ふわりと鼻先を掠めた髪の毛の香りまで一気に蘇ってきて、俺はたまらなくなって顔を両手で覆った。
「…あー、もう。俺ダメだ。ホント大好きだ…」
「…はあ」
返答になってない俺の言葉に、呆れたようなユキのため息が隣から聞こえた。
実はあの後高瀬くんは、突然『寝る』と言ってすぐに寝てしまった。
膝枕はさせてくれなかったけど、俺は正座したまま彼の目が覚めるまでその場に固まっていた。
だからまだあの日保留と言われたまま、別れの言葉は言われていない。
どうかどうか、その言葉を聞く日が一生来ませんように。
どうか少しでも、俺の気持ちが彼に届きますように。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 251