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バイトが終わりスマホを見たら、数時間前に真島からメッセやら着信がきてた。
あいつ。部活真面目にやれ。
結局真島の試合はバイトの時間もあって、途中までしか見れなかった。
今はもう日もとっぷり暮れてるし、さすがに部活も終わってるだろう。
俺は帰り道を歩きながら、履歴から真島にリダイヤルした。
『も、もしもしっ』
ワンコール鳴るか鳴らないかでソッコー出た。
はえーよ。
「あー、悪い。バイトだった」
『あっ、バイトやってるんだね。お、お疲れ様っ』
「おう。試合勝った?」
続き気になってたんだよな。
結構いい試合だったし、中途半端に帰るとか一番気持ち悪い。
『あ、うん。勝ったよ。まあただの練習試合だけど…』
「おお。すげーじゃん。おめでとう」
何気なく言った言葉だったが、真島が電話越しに小さく息を詰めたのが分かった。
『…ありがとう。高瀬くんに言われるのが一番嬉しい』
ふふふと嬉しそうな真島の笑い声が電話越しからもれてきた。
やっぱり俺の前では、あの体育館のスーパースターとは思えない控え目っぷりだ。
いやあの俺を目撃した瞬間の顔面直撃には笑ったけど。
相手選手もビックリの珍プレーだったな。
『あの…まさか今日部活見に来てくれると思わなかったから、びっくりした』
「ああ、友達に誘われてさ。少ししか見てないけど」
『せっかく見に来てくれたのに、俺かっこ悪いとこ見せちゃって…恥ずかしいなあ』
アレを差し置いても余りある好プレーの数々だったが、どうやら真島は納得いってないらしい。
あれだけ騒がれておいて、贅沢な奴め。
『…その、メッセでも送ったんだけど。今日のお昼は本当にごめんなさい』
ああ、それでわざわざ電話掛けてきたのか。
別に怒ったりはしていないが、真島だしそれなりに気にしていたんだろう。
確かにあの時はかなり驚いたが、今になれば別にデコチューくらいなんだ。
男相手のことを、グダグダ気にしている方が気持ち悪い。
まあ二度と真島の名前は呼ばないけどな。
「…正直驚いたけど、もう気にしてねーよ」
『うん、ほんとごめんなさい。今日も部活行く前に顔見たかったんだけど…。その、この間のことがあるから勇気でなくて』
ああ、なるほど。
数日前に俺がした別れ話が、真島のトラウマになってたわけか。
そういやあの時も放課後だったっけ。保留とか言ってたのすっかり忘れてた。
俺はクスリと一つ笑うと、何も考えずに口を開く。
「別に今のところお前と別れようとか思ってねーよ。弁当うまいし」
何より咲希ちゃんとは終わったしな。
だからもう少し真島に付き合ってやるか、なんて適当に言った言葉だったが、ワンテンポ遅れて俺はそれが失言だったと気付く。
いや待て。そういやコイツ俺を性的な目で見てるんだった。
今日の昼休みに痛感したばかりだろーが。
『…っ』
否定しようと思ったが、もう遅い。
真島は感激してるのか、電話越しに鼻を啜る声が聞こえてきた。
また泣くのかよ。
『良かった…。俺もうずっと不安でっ…』
なんかホント部活の時の真島とは、えらい違いだ。
こいつあの時の真島と本当に同一人物なんだろうか。
『その、もしまたどうしても別れたいって事があったら…っ、せめて一ヶ月前には言って欲しい。じゃないと俺、心の準備が…』
バイトかよ。
さすがにその要望には答えられないが、俺はこいつの言葉につい笑ってしまった。
コイツほんと俺のことが好きじゃなかったら、完璧な奴なのに。
「お前さあ、俺の前でも部活の時くらい堂々としてりゃいいのに」
『えっ、堂々…?どこの話?』
「態度の話」
そう言ったら、真島は急に黙りこくった。
別に変なことは言ってないはずだが。
ちょうど踏切に差し掛かったので、足を止める。
カンカンと鳴り響く音と、落ちていく遮断器をぼけっと見つめた。
もし俺の前でもあれだけ格好いい真島だったら、俺も今ほどは真島の事を茶化したりはしないんだろうか。
いや、どうだろう。
そもそも告白が号泣だったしな。
号泣じゃなくクソ真面目に告白されていたら、最初の時点で『無理』って返していたかもしれない。
『…堂々となんて、出来ないよ。俺高瀬くんの事、何よりも一番大事にしてるんだから』
低く、柔らかな低音ボイスが耳に届く。
――直後、ガタン、ガタンと大きな音で電車が目の前を通り過ぎていった。
「…あ、なに?悪い。聞こえなかった」
電車が通過する走行音は、きっと真島にも届いただろう。
真島は少し言い淀んでから、『なんでもないよ』と俺に返事をした。
なんだか今の台詞は、無性に居心地が悪かった。
いつも通り茶化せばいいだけのベッタベタなドラマのワンシーンみたいな言葉だったが、俺は無意識に逃げ道を探してしまっていた。
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