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「おい真島。ちょっといいか」
「はっ…はい!」
声を掛けたら、ピンと背筋を伸ばして真島は固まった。
どれだけ俺に身構えてんだこいつは。
だが真島の気持ちも態度も、全部誰が原因か分かりに分かりきっているため、さすがの俺も言いづらさに視線を逸らす。
「た…高瀬くん?」
首筋に手をあて少し言い淀んでいたら、真島が心配そうな顔で俺の元へ来た。
何が言いづらいって、『探しに行け』はいいが、二人でパレード見させるにはそのまま『帰ってくるな』と言わないといけない。
これにはさすがにこの鈍い真島だって、俺の意図に気付くだろう。
「ど、どうしたの?」
何も言わないでいたら、不意に額に手をあてられた。
それから頬に手を当てられ、何か熱があるんじゃないか、みたいな素振りをされる。
俺が少し黙ってただけで、なんで具合悪いみたいな発想になるんだよ。
だが真島の顔は本気で心配そうで、俺はコイツの純粋さに無性に居たたまれなくなった。
ぐしゃっと髪を掻くと、真島の顔を見据える。
「お前、今から亜美ちゃんと一緒にパレード見てこい。別のところで待ってるらしいから」
「…えっ?」
ド直球で言ってやった。
こんなの包み隠してもしょうがねえ。
そもそも真島相手にヘタな小細工するのは、俺が気持ち悪い。
「…えっと…それは――」
俺の言葉に唖然としたように真島が口を開くが、唐突にその言葉が途切れた。
恐らく、俺の言った言葉の意味をようやく理解したらしい。
「…っ」
真島は絶句していた。
遊園地で周りはガヤガヤと賑やかなはずなのに、俺達のところだけ音が止んだみたいに静かだった。
不意に真島がヒクリと喉を震わせる。
その瞳が大きく揺れて、俺はバクリと嫌な感じに心臓が鳴った。
――ああ、やばい。泣かせる。
真島の目に溜まった涙が、零れ落ちそうなほど潤んだ瞳から、目が逸らせなかった。
だが真島は唇をぎゅっと噛みしめると、一度下を向く。
それからゆっくりと顔をあげると、俺を安心させるようにニコリと笑顔を作った。
「…わかった。高瀬くんが言うなら」
そう言い残して、真島は背を向ける。
泣かれるかと思ったが、真島は泣かなかった。
俺は真島のあまりにも下手くそな笑顔に、呆然としていた。
女の子たちとの企みは成功したはずなのに、気分が晴れなかった。
いや、晴れるどころか後味が悪すぎる。
なんなんだよ、今の顔は。
真島は俺が言うなら、と言った。
やりたくないなら、行きたくないなら、やらなければいいだろ。
俺の頼みだから仕方なく、なんて言い方はずるすぎる。
だが真島が俺の言葉を否定しないことを、俺は分かっていたはずだ。
あんな顔をさせる事も全部分かっていた。
正直あんな状態の真島を亜美ちゃんのところにいかせたところで、どうなるっていうんだ。
こんなことには何の意味もないことを最初から知っていて、俺は真島のへこんだ顔でも見て楽しみたかったのか。
辛気臭い顔で笑った真島の顔だけが、やけに頭をぐるぐると回っていた。
なんで俺がこんな気持ちにならないといけねーんだ。
それもこれも全部、真島が俺を好きなせいだ。
「――あーあ、もうめんどくせえ。やめた」
俺はグダグダと考えていた思考を放棄する。
さっさと足を踏み出すと、背を向けて歩いていた真島の手を後ろから掴んだ。
「――えっ?」
俺の予想外の行動に真島はかなり驚いたようで、その瞳が大きく見開かれる。
「真島。今のは俺が悪かった。お前が行きたくねーなら、もう言うこと聞かなくていいから」
「えっ…でも…」
「いいよ。亜美ちゃんのところには、コイツ行かせるから」
そう言って、ベンチでグロッキーになってた貞男の襟首を引っ掴む。
「ちょっ…いきなり何。なんで俺が――」
「アホ、真島が女の所に行くよりマシだろ」
こそっと事情を耳打ちしたら、貞男は渋々納得した。
さすが持つべきものは真島の親友だ。
「な、だから真島。それより俺と見ようぜ」
「ちょっ…俺に押し付けておいて――」
「――見たい!俺、高瀬くんと見たいっ」
分かってるよ。二回も言うな。
さっきまでの落ち込みきっていた表情が、みるみるうちに興奮したように変化する。
ホント分かりやすい奴だな。
だが俺は真島がようやく見せた綺麗な笑顔に、なぜか今は安堵感で満たされていた。
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