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「高瀬くん」
声を掛けられて顔を向けると、真島がいた。
今日は終業式だし、真島も部活はないんだろう。
どうせ一緒に帰ろうと言いに来ると思っていた。
嬉しそうな顔で来るのかと思ったら、真島はじっと俺の手に視線を送っている。
なにか言いたげで、だが堪えているような。
「あ」
気付いて、さっと亜美ちゃんから手を引く。
なるほど、両手掴まれてたから妬いてたのか。
ってなんで俺がそんな気を回してやらないといけねーんだ。
「ま…真島くん、明日から夏休みになっちゃうね」
「ああ、うん。そうだね」
「あのね、夏期講習。私も受けることにしたんだ。だからその…もし会ったら話かけてもいいかな?」
おお、亜美ちゃんやるな。
これ言われたのが俺なら2秒で気持ちを察してやるが、残念ながら相手は真島だ。
「もちろん。夏期講習頑張ろうね」
「…うん!」
爽やか笑顔で対応する真島はただのイケメンで、実はコイツの本性のほうが俺より余程タチ悪いんじゃないかとふと思った。
「それと…あとね、うめちゃんにも今言ってたんだけど――」
「ごめん、高瀬くんと話がしたいからまたね」
あっさり言った。
あの真島が人を突き放すところを始めてみたが、恐らく真島は女子に話し掛けられ慣れているんだろう。
特に気にした様子もなく、いつも通りと言った表情だった。
亜美ちゃんは少し残念そうな顔をしたが、それでもニコリと笑って『またね』と去っていった。
その後ろ姿にこっちが微妙な気持ちになりつつ、真島に視線を戻す。
「あっ…あの、高瀬くん。なっ…夏休みなんだけどっ…」
そこにはいつものかっこ悪い真島がいた。
歯切れの悪い真島のカタコト話は、要約すると俺と夏休みも会いたいということだった。
別にそれはいいが。
「でもお前夏期講習も部活もあんだろ。俺もバイトあるし」
「う…そうなんだけど。でも俺一ヶ月も会えないなんて考えたら…っ」
ぐずぐず言いながら涙ぐむ真島。
確かにこいつ、この間俺と三日間会わないだけで大泣きしてたもんな。
一ヶ月も会わなかったら休み明けが逆に怖い。
「あー、そうだ。じゃあお前暇な時夕飯作りに来いよ」
「えっ?」
「夏期講習終わって夕方ならどうせ暇だろ。俺んち基本誰もいねーからさ。母親夜仕事だし」
「――行く!絶対行くっ」
興奮した真島に両肩を掴まれた。
そういやこいつ俺んち知ってるんだよな。
遊園地の帰り送ってくれたことあったし。
「あとついでに俺の宿題もやってくれ」
「うん!やるよ!」
「じゃああと俺の部屋の掃除と――」
「宿題は自分でやれ」
バコッとヒビヤンに鞄でどつかれた。
「おい真島。あんまり高瀬甘やかしすぎると、こいつお前のせいでダメ人間になるぞ」
「えっ…。でも――」
くそ、余計なことを言いやがって。
ヒビヤンはニヤリと俺に不敵な笑みを寄越してから、念押しするように真島に「絶対やるなよ」と言って去っていった。
「…日比谷くんと高瀬くん、仲良しだよね」
「はあ?ただ席が前後なだけだろ」
「うん。でもなんか、高瀬くんが楽しそうだなって」
「…まあつまらなくはねーけど」
今のどこを見て真島がそう取ったのかはよくわからないが、確かにヒビヤンとはなんだかんだ気が合う。
真島とのこともすんなり話せたくらいには。
「…あっ、俺は高瀬くんがダメ人間になってもいいよ」
「は?」
「そしたらずっと、俺が面倒見てあげるからね」
ニッコリと一点の曇りもない笑顔を作った真島に、ちょっと狂気を感じた。
「…俺やっぱ自分で宿題やるわ」
「ええっ」
そんなこんなで、夏休みが始まる。
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