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----side 真島『ベタ惚れ王子の一日』
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「真島くん」
声を掛けられて振り返る。
夏期講習が終わって、これから高瀬くんと待ち合わせをするところだった。
高瀬くんの家にいったのはまだ三回で、部活がある日は時間があわなくていけない。
だから部活のない今日は四回目で、もう昨日の夜から眠れないくらい楽しみで、今の今までずっとそのことを考えていた。
今日は何を作ろう。
高瀬くんは一緒にいればリクエストしてくれるから、聞いてから考えたほうがいいかな。
でも高瀬くんは肉が好きだから、言われたらすぐ作れるように色々事前に考えておこう。
すごく楽しみだ。早く会いたい。大好きだ。
「あの、真島くん?」
「あっ、ごめん。何?」
そういえば声をかけられていたんだった。
目の前にいるのは高瀬くんの友達の亜美ちゃんという女の子で、勉強のことでたまに相談される。
俺は高瀬くんと仲良くしているのを何度か目にしているのもあって、正直この子にはすごく嫉妬していた。
高瀬くんに女の子しか好きになれないと言われてしまったこともあって、余計に。
「か、夏期講習お疲れ様。特進科は長いんだね」
「時間違うんだ?知らなかったよ」
「うん。とっくに終わってたんだけど…真島くんいるかなって」
なんの用事だろう。
でも今日はすごく急いでるんだけど。
「どうしたの?」
「あのね、うめちゃんとお話してて…」
ドクリ、と心臓が嫌な感じに鳴った。
高瀬くんの事を名前で呼ぶのも、高瀬くんのことを話題に出されるのも、話をしていたんだと知ることも、なんかもう全部が一気にモヤモヤと黒い感情で埋め尽くされていく。
酷い嫉妬だ。
「お祭り一緒に行こうってお話しててね」
「――っ」
鈍器でぶん殴られたような衝撃を受けた。
一瞬で目の前が真っ暗になる。
どうしてそれを俺に話してくるんだろう。
高瀬くんが他の女の子とお祭りになんて行ったら、きっと俺は捨てられてしまう。
きっともう必要ないと、目を合わせてすらくれなくなる。
酷く動揺している俺を他所に、亜美ちゃんはすごくキラキラとして見えた。
どうしようもない劣等感で、押しつぶされそうになる。
「それでね、真島くんも一緒にってうめちゃんが」
「えっ」
一気に心の中にお花が咲いた。
さっきまでの真っ黒な気持ちが消え去って、ぶわあっと足先から頭の天辺まで、何かじっとしてられないような感情が込み上げてくる。
「…ぜ、絶対行くよ。すごく楽しみにしてる」
「わっ!ほんと?ありがとう!」
満面の笑顔で返したら、亜美ちゃんが嬉しそうに両手を組む。
その指先がキラキラしてて、ああ、高瀬くんはこういうのが可愛いって思うのかなって、また変に嫉妬してしまった。
高瀬くんと待ち合わせをして、合流する。
それから一緒に夕飯の買い物に行って、高瀬くんの家へ向かう。
なんだか新婚さんみたいだ、なんて勝手に妄想膨らませていることは絶対に高瀬くんには言えない。
「あ、やべ。ポスト見てくんの忘れた」
マンション5階の家の前まで来て、ふと思い出したように高瀬くんが踵を返す。
走り出してから思い出したように振り向くと、俺に向かって家の鍵を投げた。
「真島。先入ってて」
チャラっと音をさせて、それは放物線を描く。
俺は自分の鞄も、持っていたスーパー袋も全部手離して慌ててキャッチした。
こんな大事なもの、絶対に落とせない。
しっかり両手でキャッチして安心したら、高瀬くんがフッと笑ったのが聞こえた。
「お前鍵以外落としてたら意味ねーだろ。鈍くせー奴だな」
やばい。笑顔が眩しすぎる。
走り去っていった後ろ姿をぼーっとドキドキしながら見つめる。
このまま高瀬くんが戻ってくるまで惚けていたい。
が、それをしたら彼にまた何を言われるか分からない。
俺は気を取り直して高瀬くんの家の鍵を開ける。
なんだか一緒に暮らしているみたいだ。
もう一生夏休みが終わらなければいいのに。
「あ、梅乃帰ってきたの?これから仕事行くんだけどアンタ私のアイス食べ――あら?」
バッチリと目が合う。
目の前に現れた女版高瀬くんみたいな綺麗な女の人に、俺は思わず目を奪われてしまった。
「あれ、梅乃のお友達?えー!うそ、やだ超イケメン」
「あ、えっと…はじめまして。同級生の真島奏志です」
「あら同級生なの?随分あの子に比べると大人っぽいから年上かと思っちゃった」
そう言った高瀬くんのお母さんは、母親というよりは姉という感じだった。
高瀬くんが一人っ子と聞いていなかったら、絶対お姉さんだと勘違いしていたと思う。
「いえ、そんなことないです。高瀬くんのお母さんこそ随分お若くてビックリしました」
「えー。ちょっともうやだ好き」
ふわりと笑うと、本当に高瀬くんにそっくりだ。
あ、違うか。高瀬くんが似ているのか。
高瀬くんお母さん似なんだなあ、なんて知って胸が熱くなる。
「あーもー、あとせめて3年早く産まれてきてくれればこれからお店連れてっちゃったのにい」
「お店…お仕事ですか?」
「そうなの。お酒飲めるようになったら絶対一緒に行こうね。みんなに自慢しちゃう」
「はい、ぜひ誘って下さい」
高瀬くんのお母さんが誘ってくれるとか、それはもう断る理由がない。
ニコニコと笑う目元に、なんだか高瀬くんに笑いかけられているような気がしてドキドキした。
ただの錯覚だけど、高瀬くんがこんな風に満面の笑顔で俺に笑いかけてくれるとか夢みたいだ。
「おいコラ。息子の友達と同伴しようとしてんじゃねーよ」
「あら梅乃、おかえり」
戻ってきたらしい高瀬くんは妙に不機嫌な顔で、お母さん相手にじとっと目を細めていた。
「アンタ私のアイス食べたでしょー」
「あれは俺が買ってきたんだよ」
「え、でも二個あったじゃん。一個私のでしょー」
「はあ?俺が買ってきたんだから二つとも俺のだろ」
うわあ、二人そろうとやばい。
雰囲気も似てるというか、もう一生幸せな気持ちで見てられる。
ほんわか眺めていたら、「さっさと仕事行け」とお母さんは高瀬くんに押し出されてしまった。
「お前も軽々しく誘いに乗ってんじゃねーよ」
ガツッと蹴られた。
だけどそんな痛みすら愛おしくて堪らない。
夕飯を食べて高瀬くんの宿題を手伝って、あまり迷惑にならないうちに帰ることにする。
高瀬くんは、必ずマンションの下まで送ってくれる。
毎回遠慮してるのに、絶対に送ってくれる。
「じゃーな」
それでも別れる時はあっさりで、ふいと外れた視線がすごく寂しかった。
「…あ、あの。高瀬くん」
名前を呼んだら、もう一度俺を見てくれた。
それだけで心臓がぎゅっと痛くなる。
「なんだよ。名前呼んだだけとかくっそ寒い事言うんじゃねーぞ」
しまった。名前呼んだだけだった。
図星をつかれたことに狼狽えたら、高瀬くんはもう一度こっちに歩いてきた。
何を言われるんだろうと、怖い気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいいっぱいになる。
「なに、寂しいの?」
俺を見上げる視線は悪戯に笑っていて、そんな風に見つめられたら堪らなくなってしまう。
高瀬くんが望んでないと知っているのに、つい口から滑り出てしまった。
「…さ、触りたいです。ちょっとだけでいい、から」
俺の言葉に高瀬くんは少し目を見開く。
考えるように首に手を当ててから、小さくため息を吐いた。
「いいよ。触って。ただし5秒な。抱きしめんのナシ」
「えっ――わっ」
どこを触ろうと動揺している内に、高瀬くんが5、4とカウントを始めてしまう。
俺はとっさに言葉を紡ぐ彼の唇に指先を伸ばした。
カウントが止まった。
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