アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
47
-
ドンドン、と太鼓とお囃子の音が聞こえる。
多くの人でごった返す夏祭りの夕暮れ、俺達は駅前で待ち合わせをした。
お祭りの場所は駅から目と鼻の先で、あちらこちらに既に屋台が見える。
人が多いから見つけづらいかと思ったが、人だかりの中にすぐに目立つ奴を見つけた。
周りにいる浴衣女子が、きゃいきゃいと好機の目で見ている。
俺を見ていない時の真島はやはりどこからどう見ても人を惹き付けるイケメンで、すらりとした立ち姿は一つの絵でも見てるようだった。
「――あ、高瀬くんっ!」
すぐに気付かれた。
この人混みで別段目立つでもない俺によく気付いたなと逆に感心するが、あいつはスキップでもしそうな勢いで俺の所へ来る。
その表情は見るからに機嫌が良さそうで、あの件のせいでここ数日真島の様子がおかしかったから、少し安心した。
祭りに行くの初めてだって言ってたしな。
チクチクとした周囲の視線を感じる俺を他所に、全く気にせず上機嫌な様子の真島と二人で女子を待つ。
「そういや貞男は?来ねーの?」
「あ、ユキ今帰省してるんだ」
「ああ、夏休みだしな」
「うん。でもイギリスは涼しいって言ってたよ」
「――は?」
まさかの海外かよ。
よく考えればあいつ純日本人て顔してないしな。
「お祭り行くって言ったら、すごい羨ましがってたなあ」
「へー。あ、いいこと考えた」
キョトンとしてる真島に、内心でニヤリと笑う。
「よし、一緒に写真とって貞男に送ってやろうぜ。あいつも喜ぶだろうし」
「――えっ、えっ!?」
言った途端真島はなぜかテンパってたが、さっさとしろと促して真島のスマホでカシャリと一枚撮る。
真島が送信したのを見て、貞男の悔しがる顔を想像して俺は満足した。
「お、俺…この写真一生大事にするっ」
「はあ?さっさと消せよ」
「む、無理…っ」
珍しく真島が逆らった。
まあ別にそんな写真一枚どうだっていいが。
「あの…高瀬くん、やっぱり優しいよね。ユキのために写真送ろう、なんて」
「おー、そうだろ?敬えよ」
「うん!高瀬くんすごい」
素直すぎる真島を適当にあしらっていたら、女の子二人の姿が見えた。
「おまたせ、うめちゃん、真島くん」
「おー…」
亜美ちゃんも仁美ちゃんも期待通り浴衣姿で、普段と違う姿はめちゃくちゃ可愛かった。
浴衣姿の女の子と夏祭り、なんてのはある種男の夢だ。
一瞬見惚れてから、さすがの真島もこれには…と思ってちらりと見上げてみれば、ニコニコした顔で俺を見ていた。
こいつブレないな。
「二人共浴衣すごい似合ってるな。ビックリした」
「わー、ありがとう」
俺の言葉に楽しげにはしゃぐ二人。
真島も少しは気の利いたこと言えよ、と思うが、俺といる時のコイツは特に周りが見えていない。
それじゃあさっそく行こうか、と俺達は人混みの中を歩き出す。
「…で、なんでお前が隣にいるんだよ」
「えっ?」
当然のように俺の隣に並ぶ真島。
こういう時は浴衣の女の子とペアで歩くだろうが、普通。
亜美ちゃんと仁美ちゃんも、屋台見てきゃいきゃいはしゃいでるし。
まあ祭りはまだ始まったばかりだし、とりあえずはいいかと俺も食い物の匂いにつられて周囲を見回す。
「テレビでは見てたけど…ほんとに人すごいんだね」
「…つーか高校生にもなって祭り行ったことない奴がいるのが驚きだよ」
そう言ったら、真島は困ったように微笑む。
前にもこんなことがあった気がして、俺はフイと話題を逸らすように視線を屋台に向けた。
白熱灯をぶら下げた屋台の灯りを目で追っていたら、真島がクスッと隣で楽しげに笑う。
「…でも今まで行かなくて良かったよ。高瀬くんと一緒に、初めてのことをたくさん知れる方が嬉しいから」
――ドキリ、とした。
あんまりにも真島が綺麗な顔で笑うから、無意識に心惹かれていた。
が、一瞬で現実に返ってくると、さっと目を逸らす。
「お前はいちいち大袈裟なんだよ」
どこか投げやりにそう返したが、真島は変わらず嬉しそうだった。
そう、別に俺じゃなくても、例えば貞男とだって来れるような場所にしか今まで行った覚えはない。
だがこいつはいつだって、俺といる事を宝物みたいに話す。
「…な、なんだよ」
それにしても本気で今日の真島は機嫌が良さそうだった。
ずっとニヤついてるし、いつにもまして人の顔ばかり見る。
なんだかまるで、夢の国にでも連れてきてもらった子供みたいな。
「…その、今日もかわ――格好いいなって」
「は…?」
唐突な言葉に思わずポカンとする。
しかも今可愛いって言おうとしただろ。
目の前に特別可愛い浴衣の女の子二人がいるというのに、まさかのこのタイミングで俺を褒めるとか。
コイツはもうなんというか、誰も救えない。
「あー…、もういいや。それよりなんか食おーぜ」
まともに真島の相手をするのがアホらしくなってきたので、一步踏み出すと俺は浴衣の女子二人の元へ足を進めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
53 / 251