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休憩を終えて参拝者の列に並ぶ。
四人で話しながら並んでいたら、思いの外あっという間に順番は回ってきた。
「…た、高瀬くんは何かお願いすることあるの?」
「俺?ないよ」
「えっ、ないの」
「おー」
そもそも信仰心ゼロな俺に突然お願いされたところで、神様だって聞いてくれないだろう。
むしろバチがあたりそうだ。
「お前は?」
「俺は…えっと――」
言い淀んで、ちらちらと人の顔を見る。
ああ、もう分かった。なんとなく言いたいことは分かった。
真島のことは放っておいて、形式だけ済ませて列から外れる。
ほどなくして全員集まると、花火に向けての話題になった。
「えっとね、ここから少し先の橋のところがよく見えるらしいよ」
亜美ちゃんの言葉に、じゃあそっちの方面に向かって歩いていこうかという話になった。
途中で射的をしたり、かき氷食ったり、たこ焼き食ったりと再び出店を渡り歩きながら橋を目指す。
近づくに連れて人もどんどん増えていき、そろそろはぐれるにはちょうど良さそうな人混みになってきた。
「仁美ちゃん」
俺は真島と亜美ちゃんの様子を伺いつつ、そっと仁美ちゃんを手招きする。
事情を話すと仁美ちゃんは悪戯に笑顔を作って、亜美ちゃんと俺の計画に了承してくれた。
二人の様子を見ながら、俺達は人混みに紛れて遠ざかる。
一度見失うと、もうあっという間に人混みでどこに誰がいるのかなんて分からなかった。
ともすれば仁美ちゃんとすらはぐれてしまいそうだ。
「…あの、うめのん。腕、つかまってもいい?」
仁美ちゃんに上目遣いで見上げられる。
そんなことで可愛いな、なんて思ってしまうのはどうしようもない男の性だ。
「はい、どうぞ」
そっと差し出したら仁美ちゃんは嬉しそうに俺の腕を取ってくれた。
そこから少し歩いて、なんとか橋の近くまで来る。
「結構寄り道してたし、もうすぐ始まるね」
「あ、ほんとだ。あいつらちゃんと辿り着けたかな」
「うめのん心配性?」
仁美ちゃんがクスリと笑う。
いや、全く違う。俺の心配は真島が俺を必死に探したりしていないかということだ。
亜美ちゃんがいるから、とは思うが如何せんあの真島だ。
「ね、あっち行こう」
腕を引かれた先は、多少人の捌けた場所だった。
人が溢れるこの場所よりはまだマシと、そっちへ歩く。
ひんやりとした橋の欄干に手を置いて水面を見ると、三日月がゆらゆらと揺れていた。
気付けばもう空は真っ暗だったが、提灯の灯りで気付かなかった。
「うめのん、忘れてるでしょ」
「え?」
仁美ちゃんの言葉で顔を向ければ、どこか拗ねたような顔をしていた。
俺は少し視線を落として首を擦ると、仁美ちゃんに向き直る。
「忘れてないよ」
そっと告げると、仁美ちゃんがハッとして目を見開いた。
その少し緊張した面持ちに、あんな軽いノリの告白でもやっぱり返事は怖いんだな、なんて気付く。
ここ数日、珍しく悩んだ俺が出した答えはもう決まっていた。
少しは俺を思って可愛くして来てくれたのかな、と目の前の浴衣姿に微笑んでから、俺は口を開いた。
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