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花火はまだ途中で、道行く人は音が鳴る度に空を見上げて楽し気な表情を作っていた。
駅からここまでは距離もあったし、浴衣ということを考えればまだその辺にいるはずだ。
俺は人混みを一度見回してから、亜美ちゃんに電話を掛ける。
出ないかな、と思ったが亜美ちゃんは出てくれた。
電話越しの声は案の定泣いていて、とりあえず居場所を聞いたらまだすぐ近くにいた。
電話を切って、再びそこまで走る。
亜美ちゃんは屋台通りから少し外れた、薄暗い場所に座り込んでいた。
こんなところで女の子が一人で泣いてるとか、マジで危なすぎる。
「…あ、うめちゃん」
俺を見上げる亜美ちゃんの瞳が揺れる。
赤くなった目元がどこか痛々しかった。
「…危ないだろ。こんな場所に一人でさ」
「…うん。ごめんなさい」
だが亜美ちゃんは顔を俯かせたまま、立ち上がろうとしなかった。
分かってはいたが相当落ち込んでいる。
とはいえ俺が亜美ちゃんにかけてやれる言葉なんて、正直言って無い。
どの顔して慰めろって言うんだ。
「…うめちゃん、あのね。真島くんに振られちゃったぁ」
不意に俺を見上げた亜美ちゃんの目から、ボロリと涙が落ちる。
「すごく、すごく好きで大事な人がいるんだって。最初から難しい人だって分かってたつもりだけど…。でも悲しいよ、やっぱり」
なんだかこっちまで胸が痛くなりそうだった。
なんで真島は俺なんだろう。
こんなに真っ直ぐに好きになってくれる子がいるのに、どうして俺なんだ。
何度も思った疑問だが、亜美ちゃんの涙を見ながら複雑な思いで立ち尽くす。
「お祭り喜んでくれてたからね、もしかしたらって期待しちゃって…私バカみたいだったなあ」
賑わいから外れた夜道に、亜美ちゃんの泣き声と遠くに聞こえる花火の音だけが響く。
俺は何も言えぬまま、クスンと鼻を啜る亜美ちゃんの頭にそっと手を置いた。
少しでも落ち着けばいいと思ってした行動だったが、亜美ちゃんは余計に泣いてしまった。
しばらく亜美ちゃんが落ち着くまでそこにいて、頃合いを見て俺は手を差し出す。
「帰ろうか。今度はちゃんと送るからさ」
亜美ちゃんはコクリと頷いてくれた。
夕暮れ時とは逆方向へ向かう人の流れに乗りながら、亜美ちゃんの手を引いて歩く。
どうやら花火はもう終わったらしい。
あちらこちらで楽しかったねと、今日の思い出を語る声で溢れている。
ちらりと隣の亜美ちゃんを見てみれば、泣き止みはしたがその表情はひどく落ち込んでいた。
正直これが真島と何も関係していなかったら、これはチャンスとその心に付け込んでいたかもしれない。
失恋している女子ほど隙のあるものはないし、実際泣いてる姿を見ると心掴まれるものはある。
――でも。
「…ごめんな」
呟くように言った俺の言葉は、一つ間をおいて、だが確かに亜美ちゃんに届いたらしい。
亜美ちゃんは俺を見て不思議そうに小首を傾げた。
「…なんでうめちゃんが謝るの」
一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに自分の中で答えを見つけたらしい。
亜美ちゃんは弱々しく微笑んだ。
「あ、いいの。真島くんと友達だからって、うめちゃんが気を使わないでね」
そういう意味のごめんじゃなかったが、俺は何も言えなかった。
そのまま黙っていたら、亜美ちゃんはキュッと俺の手を握り返してきた。
「もー、うめちゃん、ほんと優しいよね。あーあ、失敗したなあ。うめちゃんみたいな人好きになれたら良かったのかなあ」
赤い目をしているくせに、そう言って亜美ちゃんは悪戯に微笑む。
俺は一度目を瞬いたが、ふっと表情を崩すと亜美ちゃんに笑いかけた。
「いーや、それはオススメしないな。俺を本気で好きになる奴ってさ、基本ろくでもねー奴だから」
「えー?なにそれ」
「だから亜美ちゃんみたいな子はさ、真島なんかさっさと忘れてもっと良い恋愛した方がいいぞ」
そう言ったら、亜美ちゃんはクスッとようやくちゃんとした笑顔を見せてくれた。
「なんだかそれ、真島くんがろくでもない奴みたいな言い方だね」
「え?アイツああ見えて結構情けないやつだぞ」
「えー、ほんとかなあ?」
クスクスと亜美ちゃんが笑う。
その表情を眺めながら、俺の友達にしては珍しく良い子だったなあ、なんて俺は思っていた。
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