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神社に着くと、もう人はほとんどいなかった。
屋台も既に畳まれていて、提灯の灯りだけが揺らめくその場所を歩きながら、真島を突き放した石段を目指す。
どうせ激へこみしてんだろうなと思いながら向かうと、真島は予想通り激へこみしたように項垂れて石段にぽつんと座っていた。
「真島」
声を掛けると、ハッとしたように真島が顔をあげる。
もうどうしようもないほど涙でグズグズになってる顔は、ぶっちゃけ亜美ちゃんより酷かった。
真島は酷く落ち込んでいる様子で、俺の顔を見てもその場から動くことはせず、再び視線を落とす。
控えめに言って重症だ。
「…おい、大丈夫かよ」
目の前に行ってその顔を覗き込もうとしたら、真島に服の裾を掴まれた。
「…ご、ごめんなさい。高瀬くん、ホントに…っごめんなさい」
顔をあげないまま、ポタポタと地面に落ちる涙。
コイツもしかしてこんなズブズブの状態で仁美ちゃんを送っていったんだろうか。
「…あー、もういいから。俺も言い過ぎたし」
そう言ってやったが、真島は顔をあげないままだった。
服の裾を掴む手は震えていて、捨てないでと全力で俺に言っているような気がした。
そんな姿を見ていたら、なんだか胸がギュッと掴まれたような思いになる。
真島は今日の祭りをすごく楽しみにしていたし、実際今日はいつもよりテンションも高くて子供みたいに楽しそうだった。
俺と一緒に初めての祭りに来たのが、すごく嬉しいと言っていた。
それなのに終わってみれば、コイツには苦い思い出しか残してやっていない。
「…あの、仁美ちゃんは…っ。ちゃんと送ってったから…」
「ああ、もうそれは分かったよ」
「な、泣いてないし…た、高瀬くんの大事な子に…変なとこ見せてないから」
そうか、なんとか涙は堪えてくれたか。
それはお前のイメージがガタ下がりしなくて良かったよ、と思いつつ、ん?と首を捻る。
「え、俺の大事な子?」
聞き返したら、真島はぎゅっとさらに俺の服の裾を掴む。
おいこら、伸びるだろーが。
「だ、だって…高瀬くん、あの子と…つ、付き合うんじゃないの?」
「は?付き合わねーけど」
言ったら、真島が勢い良く顔をあげる。
その瞳からぶわあっとまた涙が溢れた。
ああ、もしかしてコイツ俺が仁美ちゃんを好きだと勘違いしてたのか。
確かにここ数日少し迷ったりもしたが、もうとっくに心は決めていた。
「今日は断るつもりだったんだよ。お前に比べたら仁美ちゃんは俺の事たいして好きじゃないだろうし。俺はまだお前で遊んでるほうが楽しいからさ」
我ながら酷い言い方だと思う。
だが真島は感極まったようにギュッと唇を噛みしめた。
が、それでもまだ俺の言葉に半信半疑らしい。
余程キレたのが効いたのか、ここ最近の不安が出てきてしまったのか、再び顔を俯かせるとグズグズ鼻を啜る。
「…っでも、あの子…たかっ…俺…怖くてっ…花火も…」
「あー、もうお前何言ってんのかわかんねーよ」
ヒグヒグ言いながら再び号泣してる真島は本気でグダグダで、俺は思わず笑ってしまった。
こいつが必死なのは分かってるから笑っちゃ悪いと思うが、こんなん笑うわ。
あの学園のアイドルのこんな姿、マジで誰が予想出来るっていうんだ。
俺は真島の頭にポンと手を置くと、涙で酷く情けない顔を覗き込む。
「分かったからもう泣くな。ほら、お前の機嫌取ってやるから。どうしたらいい?」
そう言ってやったら、驚いたように真島の涙が止まる。
一度瞬いた瞳から最後の涙がパタリと落ちた。
「…だ、抱きしめたり…とか、しても…」
言いながらゴニョゴニョと語尾が小さくなっていく。
その顔はどこかまだ俺の言葉を信じていないようだ。が、一応要望は言うらしい。
だが言ってすぐに、俺に対する遠慮や自分の願望とで葛藤したんだろう。
百面相のようにころころ顔つきを変えて、なにか悩んでいる。
そんな姿を見てたら、自然と表情がやわらいでしまった。
コイツ本当に、俺の事が大好きなんだな。
「…しょうがねーな。ただし軽くな。お前力強いから」
言ったら、真島がガバッと顔をあげる。
さっきとは打って変わって赤らんだ顔が驚くほど期待に満ち溢れてて、俺はまた笑ってしまった。
「ほら、こいよ」
両手を広げて言ってやる。
瞬間、身体が浮かびあがるほど力強く抱きしめられた。
だから軽くっつっただろーが。
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