アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
60
-
その後も俺に話し掛けてくるミカ先輩を遮る貞男のやり取りを、BGMのように聞き流しながらなんとか今日分の設営は完了した。
なんでもいいがあいつら仕事をやれ。
完全に二人分いない扱いになってるんだが。
オレンジ色に染まる校舎に薄闇が掛かりはじめ、真島もそろそろ部活終わったかなと体育館の方へ視線を向ける。
「――高瀬くん!」
そこに嬉しそうに走ってくる真島の姿を見つけた。
相変わらず期待を裏切らない良いタイミングで現れる。
「お疲れ様っ。もう帰れる?」
「おー。こっちも今終わった所」
ぱあっと真島が顔を明るくさせる。
力仕事の後ともあって、疲れていたからかそのまっさらな笑顔に心なしか気持ちが軽くなる。
真島の笑顔で癒されるとか、それもこれもあの役立たず二人のせいだ。
とりあえず鞄取ってくるからここで待ってろと促して、昇降口に投げっぱなしの鞄を取りに戻る。
もうすっかり人気のない昇降口には、切れかけの蛍光灯がパチパチと鳴る音が響いていた。
「うめのん、一緒におうちかーえろ」
不意に後ろからミカ先輩が話し掛けてきた。
まだいたのかよ。もう帰ったと思ってた。
「いや、友達と帰るんで」
「じゃあいいじゃん。女の子の方が好きでしょ?」
「…俺そういうのやめたから」
全くやめた憶えはないが、適当にそう返す。
ミカ先輩は少し驚いた顔で目を丸くさせた。
それから失礼なことに、あははとお腹を抱えて笑い出す。
「なにそれ、無理でしょ。あんなに寂しがりさんのくせに」
「――はぁ?」
何を言ってるんだと眉をひそめたら、ミカ先輩は含むような笑顔を俺に向けた。
「うめのん私と似てるもん。ちゃんと分かってるよ」
貼り付けたように弧を描く唇に、何か嫌な感じがした。
とっくに忘れていたはずのあの頃の記憶が蘇ってきて、思わずミカ先輩から目を逸らす。
「――梅乃っ」
不意に名前を呼ばれて振り向けば、貞男が険しい顔をしてこっちへ歩いてきていた。
コイツも鞄をとりに一旦教室まで戻っていたらしい。
勢い良くガッと俺の腕を掴むと、問答無用で引っ張られる。
貞男はミカ先輩へ顔を振り向かせると、何の取り繕いもない不機嫌な顔のまま口を開いた。
「元カノだかなんだか知らねーけど。コイツ今付き合ってる奴いるんで、あんまり干渉しないでやってもらえますか」
ピシャリとそう言った。
美人の威圧的な態度ってのはなかなかに迫力がある。
ほんとたいしたナイト様だな、コイツ。
真島の前での態度とは大違いだ。
若干感心している俺を他所に、貞男は言い切ると容赦なく俺を引っ張って昇降口を出た。
去り際にちらりと見たミカ先輩は、何も気にしてないような素振りで俺に向かって手を振っていた。
あの人のああいう所が、心底苦手だと思う。
だが校舎を出て夕暮れ空を目にしたら、ふと先輩を一人で帰しても大丈夫だろうか、なんて考えがわいた。
まあそこまで暗くなってないし、駅までは人通りも多い。
少し気にしてみたが、よく考えたらあの先輩が一人きりで帰るとかありえない。
俺も大概女に甘いなと、自分の浅はかな考えに目を瞑る。
「…なに。お前まさかあの女に変な同情とかしてんじゃねーだろうな」
「いや、全く。ありがとな、貞男。助かった」
「――は?」
素直に礼を言ってやったら、貞男はギョッとしたように目を見開く。
それからなにか焦ったようにさっと視線を逸らされた。
「べ、別にお前のために言ってやったわけじゃねーよ。そ、奏志のためだっ」
一昔前のツンデレヒロインかお前は。
その後真島の前では可愛い貞男と、俺の前では格好悪い真島とのチグハグコンビと一緒に駅まで向かう。
「お前ら文化祭の出し物何やんの」
何気なく聞いてから、ふと思い出す。
そういえば去年真島は模擬店のウェイターをだかをやっていて、エライ女子に騒がれて行列を作っていた。
その時の真島なんか全く気にもとめてなかったから、イケメンは何やっても騒がれて幸せだなーくらいにしか思ってなかったが。
「演劇だよ。実は少しいい役を貰ってしまって…俺はあまり気が乗らないんだけど」
「えぇ、せっかく奏志がいるんだから、そこは映える役をやって欲しいよ。すごく楽しみだなぁ、演劇」
「みんなそうやって気を使って持ち上げてくれるけど…俺には少し荷が重いんだけどな」
鳥肌立ちそうな猫撫で声の貞男に、真島が爽やか笑顔で謙遜をしている。
コイツらいつもこんな感じなんだろうか。
俺とヒビヤンの日常会話とはエライ違いだ。
「まあお前ら二人揃ってんなら演劇もいいかもな。貞男だって女みてーな綺麗な顔してるし」
「――はっ?」
言いながらその顔を覗き込んだら、貞男はどこか焦ったようにぐっと息を詰まらせた。
ほんと顔は綺麗なんだよな。目なんか宝石みたいに真っ青だし。
ただし性格は捻じ曲がってるが。
なんて考えていたら、真島が俺と貞男の間に割って入ってくる。
「ゆ、ユキはダメだよっ。ほら、男の子だしっ」
「はぁ?」
何か気色悪い勘違いしたらしいが、お前だって男だろうが。
というか親友の貞男ですらお前にとってはライバルになり得るのか。
「…わ、悪いけど俺好きな人いるし…っ」
貞男にまでなんか赤い顔で言われた。
もうこいつら殴っていいかな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 251