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「ほら、行こ。私甘いもの食べたくなっちゃった」
先輩にクイと再び腕を取られる。
「――触るなっ」
とっさに口をついて出た言葉だった。
言ってから、ハッと気付く。
先輩が驚いた顔で俺を見ていた。
「やだ…嘘でしょ…」
その唇がどこか呆然としたように呟く。
だが自分の言葉に驚いたのは俺も同じで、気まずさにさっと視線をそらした。
ちょっと待て。何を動揺してんだ俺は。
真島に無視されて当然の事をしていたくせに、実際そうされるなんて全く思ってなかった。
多少へこんだ顔されてもあとでフォローすれば問題ないと、いつも通り軽い気持ちでそう思っていた。
だってアイツはいつだって俺のことが大好きで――。
「…適当なくせに、そんなマジみたいな反応しないでよ」
本当にその通りだ。
こんなに動揺するなんて俺はどうかしている。
だが変にバクバクする心臓が、なかなか収まらない。
「…あ、怒鳴って悪い」
「別にいいよ。ほら、気を取り直して遊びに行こ」
「いや、もう行かない」
俺は真っ直ぐ先輩に言った。
もうそんな気分になれなかった。
いつもと違う俺の口調に先輩は何か感じ取ったのか、一度ヒクリと肩を震わせる。
だがすぐに貼り付けたような笑顔を作った。
「…もう遅いんじゃない?これくらいの事で無視するなんて、真島くんも他の子と同じだよ」
いや、真島は違う。
反射的にそう思ったが、本当にそうなのか?となぜか不意に自信がなくなった。
今まで真島が俺にしてきたことも言った言葉も、バカみたいに俺を追いかける姿も全部記憶にあるのに、一気に夢みたいになった気がした。
「だって適当に付き合ってる人に、誰も本気にならないのなんて当たり前でしょ?」
何も言い返せなかった。
俺が先輩に言った言葉だ。
「ね、でも大丈夫だよ。寂しくなったら、私はいつでも一緒にいてあげるからね」
先輩はそう言って、ようやく俺を解放してくれた。
なんだかもうどこに行く気にもならなかった。
真島に少し無視されたくらいで、そこまでショック受けることかよ。
そう何度も自分の中で思っているが、気分は思い通りになってくれない。
俺は一体いつからあいつにここまで毒されていたんだ。
しばらくその場でボケっとしていたら、体育館から戻ってきたらしい女の子たちの声が耳に入ってきた。
どうやら入場漏れしたらしい。
たかが学祭の演劇で入場制限かかるって、どんだけアイツは人気なんだよ。
そう思ったら、なんだか少し笑えた。
そんな奴がいつまでも俺に構ってる事の方がどう考えてもおかしいんだ。
そんなことくらい最初から分かっていたし、だからこそ軽い気持ちで弄んでやろうと思った。
ふと体育館の中から流れるBGMが届いて、俺は顔を向ける。
どうやら開演したらしい。
「…劇、見に行ってみるか」
こんなところで立ち往生しててもしょうがない。
入場制限が掛かって一般生徒はもう入れないが、実行委員なら監視役として入れるはずだ。
先輩がいなければ元々見に行こうかなとは思っていたし、ただこんな気分で行きたいわけじゃなかったが、どうせやることもない。
俺は重い気持ちを振り払うように、ようやく体育館へ足を向けた。
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