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目立たないようサッと裏手側から入って中を覗き込んだら、観客席はものの見事に満員だった。
立ち見までいる。
生徒だけじゃなく巷の真島ファンが一気に押し寄せてきてるな、これ。
俺はあまり使われることのない体育館の二階スペースまで行って、そこからのんびり眺めることにした。
二階にいるのはスポット役の生徒のみで、ステージまでは少し距離があるがなんとか見える。
客席は暗いしさすがにこの位置なら真島も気付くことはないだろう。
柵に頬杖をついて始まったばかりの演劇を見降ろしながら、さて幸運を勝ち取ったジュリエット役は、と視線を落とす。
舞台の中心を彩るのは、目も覚めるようなエライ美人だった。
だがどこかで見たことのある美人だ。
そう、なんとなく、もしかしたらと若干思っていた。
というかアイツが駄々こねてる時点で絶対そうだと思っていた。
「貞男じゃねーか」
ずるり、と肩が下がる。
まあなんとなく予想はしていたが、まさか本当に男を使うとは。
男同士のロミオとジュリエットとか誰得だ。
だが貞男なら女子が嫉妬で狂うこともなく、ある意味平和な解決法なのかもしれない。
ロミオとジュリエットの話のあらすじは確か、天敵同士の名家の子供同士が出会って恋に落ちるが、色々あって反対されて最終的にすれ違いつつ二人共命を絶つみたいな感じだった気がする。
その筋の人が今の説明聞いたら大激怒されそうなほど簡単なまとめ方だが、まあ端折りまくるとそんな感じだ。
貞男はロングのウィッグと、キラキラと装飾を施されたドレスに身を包み、正直知らなかったら到底男とは思えなかった。
努力家の貞男だからこそ成せているのかもしれないが、演技も抜群に上手く観客を魅了させていた。
場面展開か、舞台がフッと暗転する。
次に明転したと同時に、各地できゃあっと小さく悲鳴があがった。
劇の最中だというのに声をあげるな。
だがようやく舞台に出てきた真島は、誰が目にしても息を飲むほど格好良かった。
しっかりと作り込まれた貴族の衣装を身にまとい、凛とした立ち姿は見る者を圧巻させる。
肩から下がるマントがどことなく王子感も出ていて、茶化すでもなくプリンスと呼ばれるに相応しい風貌だった。
昨日の昼に飯を食った時は俺に不安だと漏らしていたくせに、その演技は堂々としたものだった。
ロミオの愛の言葉に観客は酔いしれ、感嘆のため息が聞こえる。
それに答えるジュリエットは純粋無垢に一途なもので、迫真の演技というか絶対感情移入してんだろアイツ。
「…真島じゃないみてえ」
ポソッと呟いて、俺は顔を伏せる。
なんだか真島が随分遠い存在に感じられた。
ここ三ヶ月俺が見てきた真島はあんな格好いいプリンスじゃなく、情けない顔で必死に俺を好きだと言う真島だ。
緊張して、大泣きして、鼻血だして、演劇にもドラマにもなりやしないどうしようもない男だ。
だがもしかしたら、そんな真島を見ることももうなくなるのかもしれない。
アイツが今回のことで俺から離れていくなら、きっとあっさりと俺達の関係は終わるだろう。
俺は真島を追わないし、また新しい女の子を探しに行くだけで、もう何度も繰り返してきたいつも通りの流れだ。
最初からそう割り切っていたのに、なぜか伏せたままの顔を上げられなかった。
心地の良い真島の声を聞きながら、俺は初めて自分の行動に後悔をしていた。
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