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「あれ、お前今日試合あるんじゃねーの」
放課後、部活前に俺を見送りに来た真島にそう告げる。
こんなところで俺を待ってていいのかよ。
「えっ、これからあるけど…知っててくれたの?」
どこか嬉しそうだから、七海から聞いたと言うのはやめておこう。
コイツすぐ妬くし。
「女子が噂してたんだよ。頑張れよ」
「…っうん!俺すごい頑張るっ」
真島の締まりのないニヤケ顔も見たことだしそれじゃ帰るかなと思ったところで、ボンと背中を鞄で小突かれた。
ヒビヤンだ。
「お前そこは見に行ってやれよ」
「え、俺見に行ったら負けそう」
前に見に行った時の真島の珍プレーをついつい思い出してしまう。
俺が見に行ったらコイツ変に意識しそうだし、余計な力入ってバスケットボールホームランしそうだ。
「えっ…!た、高瀬くんが見に来てくれたら…俺もっと頑張れる!」
「…あ、そう」
だが真島が興奮したように言うから、バイトもないし少し見に行ってみるかなという気になった。
なぜか俺も見に行くと言い出したヒビヤンと一緒に、体育館へ向かう。
「うわ、女子すげーな」
部室へ向かっていった真島と別れて、ヒビヤンと目を滑らせながら眼前の光景を眺める。
今日はいつにもましてギャラリーが多い。
やっぱり試合ともなると見に来る奴は男女問わずいるらしい。
まだ本人がいないというのにキャーキャー言って騒いでるその女子の中に、さりげなく貞男もいた。
同じ顔して騒いでるから見落とすところだった。
あいつ完全にただのファンじゃねーか。
とりあえず俺達は2階へ足を向けるとそこから体育館を一望する。
賑やかな体育館だが、まだ来ているのは一年と思われる生徒だけだ。
ボールを出したりストレッチしたりと忙しなく動いている。
「先輩!たーかーせ先輩!」
不意に真下から名前を呼ばれた。
見下ろせば、七海がいた。
「見に来てくれたんですね!ありがとうございます!」
そう言ってブンブンと俺に手を振っている。
そういやコイツに見に来いと言われてたんだっけ。
すっかり忘れていた。
「いや、お前じゃなくて真島を見に来たんだよ」
「あー、やっぱり高瀬先輩も真島先輩のファンですかっ。確かに格好いいですけどっ、俺も超憧れですけどっ」
そう言って七海はどこかじれったそうに子供のように喚く。
だがすぐに気を取り直すと、また自信が垣間見える表情でニッと口端を上げた。
「でも、今日は俺を見ていてくださいね」
「は?」
だから真島を見に来たっつってんだろーが。
そもそもそんな発言は俺ではなく監督にでも言え。
だが七海は言うだけ言ってサッと戻っていってしまった。
「いやあ、恋の予感がしますな」
「……」
もうヒビヤン黙ってろ。
しばらくして出てきた真島は、今日はアイドルのコンサートかなという程の歓声を浴びていた。
当の真島は俺の姿を目にとめると、嬉しそうに遠くから手を振る。
会場内の注目を一気にこっちが浴びてうわっとなったが、横を見ればヒビヤンがにっこりと手を振り返していた。
お前が返すのかよ。
「ところで高瀬、真島とは結局うまくいったんだ?」
試合までまだ時間がありそうだし、俺達は手摺りに頬杖つきながらウォーミングアップしているバスケ部員を眺めていた。
真島が挙動不審にならないか少し心配したが、練習が始まれば集中しているようでこっちは見ずにちゃんとやっていた。
「…俺頭おかしくなったかもしれん」
「お、何。超聞きたい」
「引くなよ」
「今更引かねーよ。なに」
ちらりとヒビヤンを見てから、俺は視線を前に戻す。
「真島とキスした」
「わお。新しい扉開いたな。おめでとう」
こんなことを言えるのはマジでヒビヤンしかいない。
最近思ったが、コイツは茶化しているようで実は結構真面目に聞いてくれている。
そもそも真島が俺を好きだと言うことを知った時点で、他の男友達なら爆笑して言いふらしまくっているだろう。
「なあ、男同士ってどうなんだよ。この先俺どうすんの」
「待て。高瀬が恋愛相談とかいう心境の変化に今俺がついていけてない」
「俺なんか心境どころか環境の変化にもついていけてねーよ」
手摺りに肘をついて頭を抱える。
真島にちゃんと考えてやると言ったからアイツのことを考えはじめたが、そうすると今までに気付かなかった事がどんどん見えてくる。
俺が今までどれだけ真島を知ろうとしなかったのかが身に染みるほど、アイツの行動の全ては俺で構成されていた。
好きだ好きだの押し付けだけじゃなく、俺の見るもの触るものに逐一敏感に気を使っている。
それどころか俺がアイツの言葉を許してやる度に、真島が嬉しそうにする分不安がっていることにも気づいてしまった。
「まあ結局大事なのは自分の気持ちじゃねーの」
至極最もな事を言われた。
そんなことは分かってる。
分かってるが、ずぶずぶと自分が真島に流されていく度に、この関係はやばいだろという気持ちが拭えない。
今ならまだ引き返せると、そんな気持ちがぐるぐる警告のように回っている。
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