アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
85
-
帰り道は終始無言だった。
真島の試合を見て『おめでとう』だとか『格好良かった』とか気の利いた言葉を言ってやるべきだが、なんとなく言葉が出てこなかった。
帰宅ラッシュでそこそこに混み合った電車内で、真島と並んで立ちながら窓の外を眺める。
流れていくオレンジ色の住宅街をボケっと見ながら、いまだにトクトクと速い心臓の音を感じていた。
ちらりと真島を見ればすぐに目が合って、胸がドキリと跳ねる。
真島はとろりとした心ここにあらずな視線で俺を見つめていて、嫌でもコイツの気持ちが流れ込んでくる。
その視線に耐えきれず、顔を俯かせる。
ああやばい、マジでおかしくなっている。
早くなんとかしないと。
頭の中の警告音が黄色から赤に変わる。
俺の理性を置き去りにして、気持ちだけがどんどん追いつかなくなっていく。
家に帰ったらすぐに抱きしめられた。
真島が持っていたスーパー袋がバサリと床に落ちる。
我慢できなかったという様子で、真島は何も言わず切羽詰ったように俺を抱きしめてきた。
煽ったのは俺だ。
真島に自分から抱きつくなんてしたことがなかったし、それでもアイツの顔を見たら触れたくなってしまった。
電車の中でそれはもうあんな物欲しそうな視線でずっと見つめられていたから、ある程度覚悟していた。
「好き、高瀬くん、大好き――大好きだよ」
うわ言のように耳元で繰り返される告白は、俺の脳を麻痺させる。
かぷりと耳を噛まれて、ビクリと体を震わせたら堪らないとばかりに引き寄せる力が強くなる。
「ま、真島っ…ちょっと」
苦しくてもがいたのに、それすらも愛しいとばかりにこめかみに口付けられる。
「顔、あげて」
少し掠れた低音ボイスを耳元で囁かれて、ゾクリと背筋に何か突き抜けた。
真島に何かをしろと言われたのは初めてだ。
だが抗えない何かを感じてゆっくり上を向くと、待ち望んでいたようにすぐに唇が重なった。
あの時のように一度押し付けられて、もう一度。それからコツンと額を合わせられる。
真島の目が、もっと欲しいと言っていた。
走ってもないのに心臓がバクバクしているからか、息が上がってしまう。
顔が死ぬほど熱い。
頭の中の警告音が真っ赤に点滅してる。
だがのんびり考える時間を真島は与えてくれなかった。
もう一度降りてきた唇が、俺の唇に重なる。
じゅっと吸い付かれて、驚きに開いた唇から真島の舌が入り込んできた。
「――…っ」
俺が欲しいんだ、と全力で訴えられているようなキスだった。
逃げ腰になった舌を絡め取られて、俺の後頭部に回った真島の手がより口付けを深いものにする。
何か頭の先まで突き抜けていくような気持ちよさが響いて、ずるりと身体を落とす。
が、追いかけるように真島も唇を離さぬまま、俺の身体を支えながら自分も腰を落とした。
こんなキスはしたことがなかった。
酷く夢中で貪られるような、だがぎゅーと腰から背中へ這い上がってくるような快感があって堪らなくなる。
それは酷く甘ったるく、目眩がしそうだ。
「も…無理っ…」
肩で息をしながら真島の胸を押す。
コイツ止めなかったら一生やってそうだ。
気付けば玄関先の床に押し倒されていて、真島の顔に薄闇がかかるほど暗くなっていた。
痺れたように唇が濡れていて、真島の息も上がっている。
俺を見下ろす真島の表情は興奮しているようでいて、だがその目は酷く切なげに揺れていた。
「…好きだよ、高瀬くん。大好きだから…」
俺は綺麗な一枚絵でも見ているのかと言う気持ちで真島を見上げていた。
夢の中にでもいるのかなと思えるほど、頭が働かない。
「だからお願い。お願いだから…俺の事好きになって――」
真島は苦しそうにそう言って、俺をもう一度力強く抱きしめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
93 / 251