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弁当を食い終えてから、俺はさてコイツに何をどう聞こうかと言い淀んでいた。
コイツだからこそ分かる観点があると誘ってみたはいいが、実際聞くとなるとなんとも言いづらい。
七海は俺の様子を見ると、はしゃぐ子供のように楽しそうに表情を崩す。
「なんかノンケっぽくていいっすね」
「おい、専門用語出してくんな」
やっぱり相談する相手を間違えた気がしてきた。
この野郎と目を細めたら、スンマセンと七海は両手をあげる。
なんかもうアホらしくなってきた。
「いいやもう。お前相手に取り繕ってもしょうがねーし」
「えっ、なんですか」
俺は眉を顰めてズイッと乗り出すように七海に向き直る。
「ぶっちゃけ男同士ってどうなんだよ。付き合ってどうすんの」
「えっ、そんなの最終的にやることは一つですよ。セッ――」
ガシッとその口を抑える。
そんな生々しい単語は聞きたくねーんだよ。
「そういうこと言ってんじゃなくてさ…あー、色々弊害があるだろ」
「まあ…それを言ったらキリないですよ」
キリがないほどあるのかよ。
七海は首に手を当てるとクスリと苦笑する。
「言いたいことは分かりますけど。俺の場合は選択肢がないんで。それで?先輩は俺になんて言ってほしいんですか?」
そう言われてぐっと言葉に詰まる。
俺はコイツになんて言ってほしいんだ。
大丈夫だと、何も問題ないですよという言葉が聞きたかっただけなのか。
「ハッキリ言いますけど、悩んでるくらいなら止めたほうがいいです。言うほど世間は優しくないですし」
七海はあっさりとそう言った。
それは至極当たり前のことで、やっぱりそうだよなと顔を俯かせる。
世間と言われて考えてみたが、アイツだって家族がいるし特に真島は育ちが良さそうだから、男と付き合ってるなんて知ったら母親が卒倒しそうだ。
「でも俺は先輩が欲しいんで遠慮なく引き込みますけどね。責任とってちゃんとこの先も面倒みてあげるつもりなんで」
そのクダリはいらん。
だが七海の顔は思いの外真剣で、今の言葉が茶化しているわけではないんだと気付いた。
「結局の所、相手のあるべき真っ当な人生を巻き込んででも一緒にいたいかどうか、ってことじゃないですかね」
その言葉は胸にズシンとくるようで、自分の覚悟を聞かれているみたいだった。
そしてその覚悟は、俺にはなかった。
食堂から出て渡り廊下を七海と歩く。
教室棟までの吹き抜けた道のりに、乾いた冷たい風が俺達の髪を揺らす。
「言い過ぎちゃいました?」
覗き込むようにそう言われて、俺は首を振る。
「いや、当たり前のこと言われたなって思っただけ」
「でも落ち込んでません?」
「落ち込んでねーよ」
そしてなんか顔が近い。
ぐいっとその身体を押したら、押したその手を掴まれた。
「先輩、かーわい」
「――は?やめ…」
引き寄せられて、キスされそうになったからガバっと顔を引く。
危ねえ。コイツマジで油断も隙もない。
というかこんなところ誰かに見られたらどうすんだ。
慌てて周りを見回したが、どうやら今の場面は見られていなかったらしい。
だが固まって廊下で話していた数人の女子が「なんかじゃれあってるー」と好気の目で言い始めて、俺は慌てて七海を突き放した。
が、掴まれている手が外れない。
「ねえ先輩。周りの人間もこの先の事だって、俺が考えられないようにしてあげますよ」
「い、いいから離せって。見られてるし――」
「離しません」
力強い視線でそう言われた。
掴まれた手首から伝わる七海の手が熱くなっている事に気付いて、ゾワッと肌が粟立つ。
無理だ。
真島以外の男とか、絶対にありえない。
「…そんな怖がらないで下さいよ。堪らなくなります」
俺を見下ろす七海の目がスッと虚ろにゆらぐ。
何か背筋に冷たい感覚が突き抜けて、思わず後ずさった。
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