アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
95
-
「お、ダメ人間から復活してる」
なんとなく授業を聞いてただけなのに、ヒビヤンに後ろから小突かれた。
だから話し掛けてくんな。数学教師がこっちを見ている。
「真島と仲直りできたんだ?」
その名前を出されて、ドキリとする。
こんなことで心臓跳ねさせて俺はアホか。
「別に。もともと喧嘩なんかしてねーよ」
「ほお?」
最近全く真島の事を口に出してこないと思ったのに、ここにきてなんでまた茶化しはじめた。
ヒビヤンのやけに楽しそうなひっそり声が聞こえてくる。
「お前が赤点取ったって教えてやったら、自分が再試受けないとって動揺してたから爆笑したわ。真島って実は結構なアホなのか?」
「ああ、ついにお前もそれに気付いてしまったか」
真島がそんなに言うなら、さすがに再試は無理だが赤点で出された課題はやらせてやろう。
あいつの期待を裏切ってはいけない。
なんて考えてから、ふと気付く。
ああ、だから真島が教室で待ってたのか。
ひょっとしてヒビヤンは、茶化しているようで俺を助けてくれたのかも知れない。
最近一緒に飯も食ってくれてたし、もしかしたら気にかけてくれたんだろうか。
ヒビヤンのことだから疑わしいところだが、礼の一言でも言ってやるかと後ろを向く。
「あっ、高瀬くん。授業中なんでこっち見ないでもらえますかね」
このあとめちゃくちゃ数学教師に怒られた。
「せーんぱい!」
うわっ、出た。
昼休み。授業で少し遅れるからと真島にメッセを貰って、なら先に屋上に行くことにする。
階段を登っていたら、いきなり背後に現れた七海にがばっと後ろから抱きしめられた。
「おい離せ。触んな」
相変わらず純粋そうな顔でニコニコしているくせに、その実性欲バカの七海の顔をぐいっと掴んで引き離す。
「あれっ、今日は抵抗するんですね」
「いつもしてるだろ」
「日比谷先輩が、じゃないですか。今日は一緒に飯食わないんすか?」
「おー。てかついてくんな」
結局七海は屋上まで着いてきた。
扉を開けて流れ込んでくる風は、相変わらず気持ちがいい。
なんだか久しぶりな気がした。
実際屋上で飯を食うのは久々か。
「こんなとこで飯食うんすか?誰もいないしヤリたい放題ですね」
「お前絶対俺に触るなよ」
「え、触りますよ。せっかく先輩の彼氏さんもいないし」
「――は?」
鞄を放り投げたところで、七海の言った言葉に首を傾ける。
「お前俺が付き合ってるやつ誰だか知ってんの?」
「え、だから日比谷先輩でしょう?俺あの人には先輩渡したくないんですけど。絶対俺の方が先輩のこと好きですよ」
そう言って七海は不貞腐れたような顔をする。
思わずぶふっと吹き出してしまった。
こいつの勘違いは留まることをしらない。
「お前ってホント可愛いやつだよな」
「えっ、なんですか。俺今誘われてます?」
「誘ってねーよ」
だがにじり寄ってきた七海が、俺の手首を掴む。
しまった、調子に乗らせたかと思ったところで、屋上の扉がバン、と勢いよく開いた。
「ごめん高瀬くんっ。待たせて――」
息を切らせて走り込んできた真島の目が、俺と七海を捉えて大きく見開く。
「――えっ、真島先輩?」
おんなじ顔で七海も真島を見ている。
なんでこんなところに、って顔だ。
真島は無言で俺達の所に歩いてくると、七海の手首を掴み上げる。
その動作を見て、ようやく七海が把握したらしい。
「え…っ、マジですか。嘘でしょ?」
「七海くん、高瀬くんに何してるの」
「えっ…えええっ」
真島は独占欲丸出しな顔で、呆気にとられている表情の七海を見る。
なんとも陳腐な修羅場みたいになってる展開だが、見ているこっちは結構面白かった。
しかもキャストは男三人て。
七海が信じられない、と言った顔で俺と真島の顔を交互に見る。
「うわー、マジですか。これは予想外だったなあ…てか高瀬先輩そうならそうだと言って下さいよ」
「いや、なんかあえて言うのもなーと」
「俺めっちゃ恥ずかしい奴じゃないですかっ」
「だから可愛い奴だなって言っただろ」
そう言ったら、真島が俺に向けて不安げに瞳を揺らす。
ああもう、そんな顔すんな。
大丈夫だよ。お前以外はありえねーから。
「…マジですか。これはかなりの強敵っすね」
だが七海はまだ何か諦めてないらしい。
そう言ってから真島に向けた視線は、今までの憧れや尊敬の眼差しとは違うものだった。
「ね、先輩。高瀬先輩くださいよ。真島先輩なら誰だって他に選び放題でしょう?」
七海は真っ直ぐ真島に視線を合わせて、続ける。
「高瀬先輩の事、俺のほうが絶対好きですから。いいですよね?」
堂々とした態度で七海にそう言われて、真島の目が驚いたように瞬く。
ああ、これはちょっとマズいか。
そう俺は察して完全に面白がって見ていた気持ちにセーブをかける。
真島はミカ先輩にいじめられて泣くような奴だし、こんなことを七海に言われたら不安になって泣くんじゃないだろうか。
そうなったら先輩の威厳やらも落ちそうだし、ここは真島を助けてやるかなと一つ息を吐き出す。
だが真島は七海の言葉に怒るでも泣くでもなく、ふふっと笑った。
その予想外の反応に俺も七海も、ポカンと目を丸くする。
「七海くん、高瀬くんは物じゃないよ?」
真島は男でもハッとするような綺麗な顔で笑う。
ふわりと微笑む笑顔は七海に向けられていて、その表情はなんの煽りも受けていないようで、ただ困った後輩を見る先輩の顔だった。
「でもね、高瀬くんを一番好きなのは間違いなく俺なんだ。だから高瀬くんに俺はね、選んで貰えたんだよ」
真島はそう言って幸せそうに七海に笑いかけた。
その言い方はあくまで全てが俺主体で、こんな選び放題の奴がそんなことをいうなんて、正直反則だ。
七海は真島の言葉にポカンとしていたが、やがて何か興奮したように顔がじわりと紅潮していく。
「――…かっこいー」
感動するのかよ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
103 / 251