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大型連休という事もあって、街中はずいぶん人通りが多かった。
真島と駅前で待ち合わせをしていたが、少し時間より早く出てきてしまった。
正直男同士の水族館とかクッソ寒すぎで、前の俺なら「ねーわ」と一言で返していただろう。
だが好きな奴が相手だと、気分は楽しみ以外の何物でもないらしい。
そんなわけでミカ先輩と懐かしの仁美ちゃんとも一緒に行ったことのある水族館だが、真島のリクエストだから仕方ない。
待ち合わせた場所に着いたら真島は既にいて、なんかスナップ写真の撮影だかに掴まっていた。
相変わらずうまく断れないらしくモタモタと会話していたが、俺が来たと気付いたら一言でばっさり断ってこっちへ駆けて来た。
最初からそれをやれ。
今日の真島は真っ白なシャツを起点とした爽やかなコーデに仕上がっていて、確かにスカウトマンも二度見する会心の出来栄えだ。
思わず目を奪われていたら、目の前に来た真島がギュッと俺の手を取る。
「高瀬くん。来てくれてありがとう。すごく嬉しい」
色付いた頬が優しく綻ぶ。
真島はいつにも増して機嫌が良さそうだった。
さすがに人前で男同士手は握れないからそこは離したが、それでも幸せそうにずっとニコニコしている。
なんだかそんな様子を見ていたら、去年の夏祭りを思い出してしまった。
興奮して子供みたいにはしゃいで、ああでも最後は俺に怒られて大泣きしたんだっけ。
「あ、あのね、水族館行くの俺初めてなんだ。楽しみだなあ」
「へー、そりゃ良かったな」
俺はこの水族館行くの三回目だけどな。
とは言わないが。
子供連れやらカップルやらで賑やかに混み合った水族館へ辿り着く。
興奮したように顔を赤らめてはしゃぐ真島と、のんびり館内を見て回った。
それにしてもコイツ本当に楽しそうだ。
「お前そんなに水族館好きだったのか?」
何気なく聞いたら、真島は少しぎくりとして視線を逸らす。
「え、えっと…」
「なんだよ。もしかしてどっかの雑誌に載ってたおすすめデートスポットだったからとかそんな理由じゃねーだろうな」
「えっ!?な、なんで分かったのっ?」
真島の言葉にずるりと肩を落とす。
今更すぎるが単純かよ。
デートといったら水族館とか定番すぎるし、散々女と遊んできた俺相手にそんな分かりやすい手を使ってくるとか。
それでも真島が俺のために考えてくれたんだと思えば、不思議と心が緩む。
なるほど、俺も単純だったのか。
一通り目に入ったところを見て回ってから、ちょい便所行ってくるわと真島を残して用を足しにいく。
アイツも男なんだし連れションすればいいものを、なんかギクシャクしながら断られた。
手を洗ってから館内へ戻る。
アクアリウムの前に立つ真島の姿を見つけて、俺は声を掛けようと口を開いた。
「まし――」
その名前を呼ぼうとして、ハッと言葉を飲み込む。
真島が立つアクアリウムの前で、イルカが恋でもしたように真島に惹き寄せられていた。
それを見上げる真島の表情もどこか切なげで、それはとても幻想的な光景だった。
まるでファンタジーな絵本でも開いてしまったかのような錯覚に捉われる。
「――あ、高瀬くん。おかえり」
俺に気付いた真島が顔を向かせて、ニコリと微笑む。
「…何イルカに懐かれてんだよ」
「不思議だよね。この子ここから動かないんだよ」
そう言った真島は、またイルカを見上げる。
そんな姿を見たら、ふと思い出した。
ミカ先輩からの受け売りで、仁美ちゃんにも言った言葉。
真島の隣に立って、水中に発光するような真っ白なイルカを見上げる。
「…イルカって恋愛するらしいよ」
前回は女の子を口説くために使った言葉だ。
だが今の光景があまりに綺麗だったから、もしかしたら本当なんじゃないかと思ってしまった。
このイルカは、もしかしたら真島に恋をしてしまったんじゃないだろうか。
真島はアクアリウムから俺に視線を戻して、眉を落として切なげに笑う。
儚げで、もろく崩れそうな弱々しい笑み。
「それは困るなぁ。イルカさんにまで高瀬くんをとられたくないよ」
――ああ、くそ。
心臓が、痛い。
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