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HRを終えて昼休みになったが、とりあえず後ろへ振り返る。
「なんで別れたんだよ」
「別に大した理由じゃねーよ。方向性の違い?」
「売れないバンドミュージシャンみたいな事言ってんじゃねーよ」
ヒビヤンは中学からずっと同じ彼女と付き合ってきたはずだ。
三年の今になって方向性の違いで別れるとか、もしかしてあれか。進路か。
「どっちから別れたんだよ」
「俺。あー、あとなんかお前ら見てたら、ちょっと違う気もしてきてさ」
「え、俺らの方向性なんか完全に捻じ曲がってるけど」
言葉の意味が全く分からず眉を潜めたが、ヒビヤンはどこか面白そうにククッと笑った。
「いーや?俺にはお前ら一直線に見えるけどな」
「真島がな」
「真島だな」
言われてから、ひょいと指さされる。
入り口に真島が立っていた。
クラスの女子が色めき立つ。
ヒビヤンを置いて真島の元に向かうと、俺は弁当を受け取った。
真島は今日もニコニコと機嫌良さそうな顔をしている。
ずっと一日中昼休みを待ち詫びていたって顔だ。
「わり。ちょっとヒビヤンと話すからまた今度な」
「――えっ」
あと一個で完成する長蛇のドミノ倒しを誰かに先に倒されたみたいな顔された。
相変わらずコイツの感情の起伏は激しい。
じゃーな、と戻ろうとしたが、ふとこれだけじゃ言葉が足りないかと立ち止まる。
「変に気にすんなよ。いい子にしてたら後でご褒美やるから」
指を差してそう言ってやったら、ぶわっと真島の顔が耳まで赤く染まった。
その間抜け面にふっと笑ってから、俺は再び自分の席に戻る。
弁当持って席に戻ったら、ヒビヤンが鞄を持って立ち上がっていた。
学食に行こうとしているらしい。
「あれ、真島と食わねーの」
「おー。俺も一緒に行くわ」
「パン食いたいから購買な」
「へいへい」
どこへでも、と購買へ向かう。
それから適当に購買出たところの石段に腰掛けて、俺らは飯を食うことにした。
「もしかして高瀬、俺の事慰めようとしてる?」
「してる。何の言葉も浮かんでこねーが」
「お前に期待した俺がバカだったわ」
ヒビヤンから別れたとは言え、長い付き合いだったわけだし何も感じてないことはないだろう。
へこんでいるかどうかは知らないが、なんとなく放っておけなかった。
「別に元々マンネリ化してたからな。そこまで重い話なんかねーぞ」
「へー」
「聞く気があるならもっとマシな返答しろよ」
そう言われても。
誰かのフォローだとか恋愛相談だとか、正直俺はあまりされたことがない。
それは俺にしても大した答えが得られないと、周囲からも思われていたからなんだろう。
つまるところ俺は顔は広いが、本当に仲の良い友人なんてものはいなかったということだ。
「…まー、あれだ。新しい出会い見つけろ」
「ほんとお前フォロー下手くそだな」
「俺もそう思う」
言いながら腕を組む。
こういう時なんて言ってやるのがいいんだろう。
そもそも同じ経験をしたことがないのに、俺がヒビヤンにぶっ刺さるような良いことを言えるとも思えない。
一応こっちはこれでも真剣に考えてやってんのに、ヒビヤンは俺を見て楽し気に喉を慣らして笑った。
それからポン、と頭に手を置かれる。
何で俺が慰められたみたいになってんだ。
「お前にも教えといてやるよ」
「…はあ?なにを」
どこか茶化した顔してる癖に、その視線だけは妙に真剣に俺を捉えていた。
「ちゃんと付き合ってんなら、別れられるより別れを言う側の方が、たぶんずっと疲れるぞ」
ドクリ、と嫌な感じに心臓が音を立てる。
俺はおよそ十ヶ月後に、ヒビヤンと同じ道を辿る。
真島に、別れを告げる。
その事が急激に現実味を帯びたようで、冷やりとしたものを背筋に感じた。
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