アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
----side 真島『我慢』
-
高瀬くんに、触れなくなってしまった。
マンションからの帰り道、俺は愕然と自分の両手に視線を落とす。
本当は時間の許す限り彼を抱きしめて、たくさんたくさんキスをしたい。
それ以上のことだって、もちろんしたい。
だけどここのところ彼に触ると、どうしようもなく身体を手に入れたいという欲求が抑えきれなくなる。
だって正直堪らない。
彼の表情の一つ一つが、その仕草が、どうしようもなく抗えきれない色気を放っていて一瞬で意識を持ってかれてしまう。
ともすれば襲って好き勝手にたくさん酷いことをしてしまいそうで、そんな自分の感情を抑えるのに必死になってしまう。
結果、彼に触れられない。
「…はぁ」
人気の無い住宅街を歩きながら、少しでもズキズキとする心臓の痛みを逃がすようにため息を吐き出す。
もし彼の身体を手に入れたら、きっと心が手に入らなくなってしまうだろう。
キスを許してくれているだけで凄いことなのに、それ以上の負担を彼に押し付ける訳にはいかない。
恋愛対象が女の子の高瀬くんにとって、俺が今していることはきっと高瀬くんにとって喜ばしいものじゃない。
だけど俺がみっともなく彼に縋り付くから、高瀬くんは優しさで俺を突き放せないだけなんだ。
全部ちゃんと分かっているのに、麻薬のように甘い一時を知ってしまって、彼を求めることをやめられない。
だけどそれに甘えて彼のことをなし崩しに抱いてしまったら、本当に心が手に入らなくなってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。
一緒にいられなくなるのが、何よりも一番苦しい。
卒業式まではもうあと十ヶ月しかなくて、絶対に好きになってもらわないといけない。
もし好きになって貰えなかったら、高瀬くんに会える日が一生こなくなってしまう。
「――っ」
考えるだけでゾッとした。身体中が急激に凍りついたように冷たくなって、足が竦んでいく。
酷い胸の痛みに襲われて、俺は必死に頭を振った。
ともかく今は絶対に別れないと言ってくれているし、俺が高瀬くんに嫌われるような行動を取らないことが一番大切だ。
話せるだけで、その顔を見れるだけだって十分嬉しい。
ずっと彼の瞳に映りたいと焦がれ続けてたんだ。
あの時の自分に比べれば、今はなんて贅沢な悩みを持っているんだろうと思う。
俺で遊ぶんだと高瀬くんは言っていたけど、それでも卒業式まで別れないという約束をしてくれているだけでこれ以上の幸せはない。
それにもう一つ。
俺はちらりと自分の足首についたミサンガを覗いた。
高瀬くんとお揃いのそれは、勝手だけど心が繋がっているような気になってすごく嬉しくなる。
ミサンガは本来願を掛けるものだと聞いたことがあった。
高瀬くんには申し訳ないと思ったけれど、実はこっそりお願いしてしまった。
彼の利き手にミサンガを付けながら、どうか俺と、一生一緒にいてくださいと必死にお願いしてしまった。
高瀬くんにバレたら怒られそうだけど、それでも俺の心の中の事はきっと彼にも分からない。
なぜだかよく考えてることをズバズバと当てられてしまうけど、それでも何か縋れるものがあるのなら、何にだってお願いしたい。
だからこそ大事な、本当に本当に大事な人を傷つけるようなことは絶対にしてはいけない。
そのためだったら、なんでも我慢してみせる。
俺はどうしようもなくドキドキする心臓を、必死に抑え込むように目を瞑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
116 / 251