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とりあえず遅れて風呂に入ってから、ホテルで用意されている浴衣に袖を通す。
部屋に戻ったら誰もいなかった。
そういえばあとで女子部屋行こうって事になってたんだっけ。
みんな既に行ってしまったらしい。
だがそれに向かう気には今はならなかった。
今しがたの真島とのやり取りを思いだすと、胸焼けしたような気持ち悪さが俺を蝕む。
既に布団が敷き詰められている部屋を横切って窓際まで行くと、カラカラとその窓を開けた。
京都の夜の風は、ほんの少し湿っていて冷たい。
まあ川の近くだからなんだろうが、しんみりした今の気持ちに余計に拍車を掛けるようだ。
『た…高瀬くんには、分からないっ』
みっともない真島の泣き顔を思い出す。
真島があんな風に声を荒げるなんて、まさか思ってもいなかった。
ひょっとしなくてもこれ、真島と喧嘩したんだろうか。
せっかくの修学旅行なのに、一体俺達は何をやっているんだろう。
お互い一緒にいる時間を必死に大切にしているのに、なぜかすれ違ってしまう。
窓にもたれかかって、ぼんやりとあの一部始終に思考を巡らせる。
思い出しても最初から最後まで真島の鼻にはティッシュが詰まったままというシュールすぎる光景なのに、全く笑う気になれない。
あの時、どうすれば一番良かったんだろう。
ただ俺は、もっと真島に触れてほしかっただけだ。
それを拒まれて、気持ちが酷く焦っていた。
「…なにしてんだ俺――」
は、と気付く。
俺は何馬鹿なことをしてたんだろう。
必死で真島に触れて貰いたいなんて、別れようとしている奴が何を思っているんだ。
恋心で俺まで周りが見えなくなってどうする。
そんな役は、真島だけで充分だ。
突き刺すような痛みから目を逸らすように、冷たい窓の縁に額を付ける。
少し冷静になって考えれば、真島が俺に対して怒るなんてすごい進歩じゃねーか。
恐らく絶対に今は別れないという制約があるからこそ、きっと俺に対して気持ちをぶつける事ができたんだろう。
そう思えばずっと人の顔色を伺ってビクビクし続けてきた真島に対して、少し嬉しいような気持ちもある。
って俺は我が子の成長を見守る母親か。
どれくらいそうしてただろう、不意にガチャッと音がして部屋に誰か入ってきた。
見たら、ヒビヤンだった。
そういやヒビヤンは元カノに連れてかれていたし、あの後どうなったんだろう。
「なに、高瀬一人?他の奴らは」
「女子部屋行ってる」
「おー、楽しそうだな」
「…お前大丈夫かよ?」
人の心配している場合でもなかったが、それでも珍しくヒビヤンの顔が疲れているように見えた。
どこかぎくりとしたようにヒビヤンは目を瞬かせると、苦笑しながら頭に手を当てる。
「…いやー別れたくないってすげー泣かれてさぁ」
「あー、そりゃ大変だったな」
ハハハと乾いた笑いで返す。
自分でもそれは身に覚えがあるし、ついでに言ったら一番最初に別れ話をした時の真島なんてまさにそれだ。
バタリと脱力したようにうつ伏せで布団に倒れ込むヒビヤンは、なんだか本気で疲れたみたいだった。
「…大丈夫かよ」
ヒビヤンのこんな姿は初めて見た。
少し心配になってヒビヤンの目の前へ座ると、ポンとその頭に手を当ててやる。
「うわー、優しさが今は身に沁みるわ。好きになっちゃうからやめて」
「素直に気持ち悪い」
「俺もそう思った」
フツーに鳥肌立ったわ。
と思ってヒビヤンを見たら同じく鳥肌立ってた。
なんだその諸刃の剣みたいな冗談は。
「あー…でもほんとしんどいわ」
かと思っていたらガバっと腰に抱きついてきた。
まあ真島でもないし、単純に精神的に疲れてるらしいことはよく分かる。
たぶん別れ話をして、一周回って人恋しくなってるんだろう。
かく言う俺も今さっきの真島のことで、無性に一人ではいたくない気持ちだった。
というか俺らは二人揃って修学旅行一日目から、なんでライフ尽きかけているんだろう。
仕方なくヒビヤンの頭を、よしよしと撫でてやる。
「…なんかお前いい匂いすんな」
二秒で離れた。
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