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修学旅行三日目。
今日も一日自由行動で、俺達の班は京都を少し離れ大阪へ向かうことにしていた。
それぞれ班員の意見を取り入れつつ城やら展望台やら博物館を回って、最終的に食いだおれようぜみたいな感じの予定だ。
「高瀬、写真とろーぜ」
「え?またかよ」
ぶっちゃけ写真とか面倒であまり好きじゃないんだが、自由行動も最終日だからか各地でいちいち記念だしとヒビヤンに言われて付き合う。
昨日はそんな事なかったのに、おそらく自分のリクエストである大阪城に来たからか今日はやたらスマホで写真を撮っていた。
コイツもそれなりにはしゃぐらしい。
はしゃいでるヒビヤンは放っといて俺は一足早く出てくると、石壁に寄りかかってスマホを取り出す。
真島からは相変わらず音沙汰無しで、俺からも結局何も送れていなかった。
もう三日目で、自由行動も今日で終わりだ。
結局真島と回ることは出来なかったなと、ミサンガを見つめてため息を吐き出す。
というかここまで何もこないと、なんだか逆にアイツが俺のこと忘れてんじゃねーかなとか、そっちに考えがいってしまう。
アイツに限ってそんな事あるはずないと思っているのに、なぜか不安になる。
だが考えたら今は修学旅行中だし、単純な奴だからきっと楽しくやっているんだろう。
なんだか真島の臆病がうつってしまったのかなというほど俺はスマホ片手にウダウダしてたが、ふと目の前を横切った修学旅行生の会話が耳に入ってくる。
それは同じ学校の制服を着た女子のグループで、クスクスと何やら楽しげに話をしている。
「最近可愛いよね。プリンス」
「分かる。何やってたんだろうねー。全力王子」
えっ、と耳を疑う。
別に真島の噂なんて年がら年中校内にいたら聞こえて来るから珍しいことじゃない。
だがよくわからない行動をしている時の真島は、大抵俺に関しての事だ。
それでも真島からは特に連絡もないし、聞き間違いだったのかと思っていたら班員が追い付いてきた。
少し気にはなったが班行動してるなら勝手な行動も出来ないし、大人しく次の目的地へ向かう。
その後いくつかの観光地を回り、大坂市街地までやってきた。
「はい、高瀬。こっち見て」
「もういいわ」
串カツ食ってたらカシャリとまたヒビヤンに撮られた。
そろそろギャラ貰うレベルに鬱陶しい。
この辺りは人も賑やかで、ともすればはぐれてしまいそうだ。
さすが有名観光地、同じ学校の生徒も多くあちらこちらでその姿を見受けられる。
と、また女子グループの話が聞こえてきた。
それはまた真島に向けての噂話で、なんだか今日は行く先々で聞いているような気がする。
ちょうど班員が他の店に気を取られているタイミングで、俺はその女子集団を捕まえると直接話を聞いてみることにした。
「プリンスならさっきそっちの大通りで見たよ。なんか探してるみたいだったけど」
「一人だったから思い切って話しかけようと思ったんだけどね、すごい勢いで飛んでっちゃうから」
「ね、迷子王子」
ふふっと女の子たちが楽しげに笑う。
俺はどこか愕然とした気持ちでそれを聞いていた。
やっぱり聞き間違いじゃなかった。
あいつのおかしな行動の原因なんて一つだ。
俺の前以外では格好良い真島が迷子になるわけはないし、きっと俺を探している他ない。
けどこんな広い土地で自由行動の選択肢なんて無限にあるのに、大体の位置だって俺を見つけるなんてのは不可能なはずだ。
そんなドラマみたいな偶然がありえるはずはない。
「わ…悪い、すぐ追いつくから先行ってて」
だがとっさに近くにいたヒビヤンにそう伝える。
はいはい、と特に気にした様子もなく了承された。
ダッシュで大通りへ向かう。
観光客でごった返しているこの土地で、いくら近くにいるとはいえ真島に会える確率なんて低い。
なんで真島はここにいるんだ?
たまたま真島の班もここに来ていたのか?
でもなんで一人なんだ?
いくつかの疑問はあるが、それでも大通りへ出ればすぐに真島に会えると思った。
あるのは確証ではなく、自信だった。
なぜなら真島は、俺を見つけるのが上手い。
「――高瀬くん!」
大通りへ出たら、すぐにその声がした。
顔を振り向かせれば、全力でこっちへ駆けてくる真島がいた。
「な、なんでお前…こんなとこに」
「よ、良かった。見つかった…っ」
俺の前まできた真島が、膝に手をついて荒く肩で息をする。
本気で必死だったらしく、まだ夏前だと言うのにその額からは汗が流れ落ちている。
というか本気で俺を探してるならスマホを使え。
どんだけ頭回ってねーんだ。
「ご、ごめんね。自由行動中なのに…っ。あ、あれ?高瀬くん班員は?日比谷くんは?」
キョロキョロと真島が辺りを見回す。
それはこっちの台詞だ。
「お前こそなんで一人なんだよ」
「…あっ、あのっ。俺、もうこれ以上見てられなくて――」
「なにが」
そう言ったら、不意に手を差し出された。
えっ、と思ってその手を見つめ返す。
何だこの手は。
「――高瀬くん、俺と一緒にきてくれませんか?」
時間が止まったかと思った。
が、次の瞬間にはバクリと大きな音を立てて心臓が動き出す。
紛れもなくそれは『抜け出し』のお誘いで。
まさか真島から言われるとは思わなかった。
俺の今ある時間の全ては、真島のものだ。
もちろん、断るはずもない。
差し出されたその手に自分の手を重ねると、きゅっとその手に指を絡められた。
触れた場所から身体が熱くなる。
心臓が、どんどん速くなる。
真島がいる。
理由はよくわからないが、真島が来てくれた。
ぼーっと夢でも見ているような気持ちで、その顔を見上げる。
「ありがとう」
全身から喜びが溢れだしそうな微笑みが、俺に向けられた。
真島はしっかりと繋ぎ直した手を引いて、歩き出す。
聞きたいことも言いたいことも山積みだったが、とりあえず黙ってその背中についていくことにした。
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