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あまりにも格好良く俺を連れ出すから、一体どこに連れてってくれるのかと思ったらどうやらノープランらしい。
というかコイツ絶対何か衝動のまま俺を探して、とりあえず連れ出そうとか思ってただろ。
まあそもそも知らない場所で予定にない事をする方が難しいから仕方ないが。
俺の手を引く真島の背中を見上げる。
さっきからもうずっと心臓がバクバクしてて、たぶん真島をバカに出来ないくらい俺は喜んでいた。
顔には出さないけど、嬉しかった。
真島と今ここにいることが、それだけで胸が締め付けられる。
一緒にいてくれるだけでいい。
もう、それだけで良かった。
「真島」
橋に差し掛かったところで、その背中に呼びかける。
立ち止まって視線を持ち上げたら、もう首まで真っ赤になった顔で振り向かれた。
「何だその顔」
「えっ、お、俺変な顔し…してる?」
「してるといえばしてるけど、別にいつも通りといえばいつも通りだな」
「あ…あのっ…ひ、久しぶりに会えたから――」
声を裏返して言葉を詰まらせる。
なるほど、つまり緊張してるって言いたいんだろう。
久しぶりと言ったって一日ぶりなんだが、コイツの時間の感覚は相当おかしいらしい。
けど時間の感覚がおかしくなっているのは、俺も同じで。
ガッチガチに固まっているアホ面に、ふふっと堪えきれず笑ってしまう。
それからキュッとその手を握り返してやった。
真島が俺を見つけられた理由はまだ分からないが、連れ出したはいいがなんかテンパってるらしいし、ならここから先は俺が引っ張っていってやる。
コイツが必死になって俺を探し出してくれた分、今度は俺がコイツを楽しませてやりたい。
「俺まだ見たいところも食いたいモンもあるんだけど。ちゃんと全部付き合ってくれんだろーな」
覗き込むように見上げたら、赤い顔が打ち震えたように全身を揺らす。
「――うん!」
市街地に透き通るような真島の声が響き渡った。
とはいえ自由行動は残り、もう数時間しか残っていなかった。
俺も真島も、間違いなくお互いに言いたいことも聞きたいこともたくさんあると分かっているのに、どちらも今すぐにそれについては触れなかった。
それよりもまずはこの場所で、出来る限りの楽しい思い出を作りたい。
ごめんなさいも、言い訳も、そんな話をしている時間すら俺達には惜しかった。
初めてくるこの場所でお互い目に入るものは今度こそ二人揃って初めてで、何をするにも何を見るのも全力で楽しかった。
俺が笑うと真島はすぐに真っ赤になって、だけど幸せそうな視線が俺を捉えて離さない。
人前だからそう簡単に触れ合うことは出来ないが、それでも事あるごとに互いの体温を感じてはドギマギと身体を強張らせる。
時間が加速しているような錯覚を覚えるほど、数時間はあっという間に過ぎていってしまった。
空に薄闇が掛かりはじめ、二人並んでぼんやりと夢の余韻に浸るようにホテルへ帰るための電車を待つ。
瞬きしたのかと思えるほど一瞬の時間に色々と置き去りにしてしまっていたが、俺はようやくここで班員から何の連絡も入ってないことに気付いた。
きっとヒビヤンが察して、誤魔化してくれたんだろう。
「お前そういえば班員は大丈夫なのかよ」
「あ、うん。実はユキが誤魔化してくれててね」
「へー、貞男がよく協力してくれたな」
俺の事を心底嫌ってるアイツが協力してくれるとか。
まあそれでも真島の幸せを願う奴だから、そっちを優先させたんだろう。
「…はぁ、戻りたくないなあ」
「それはさすがに大問題になるから駄目だな」
けど気持ちは分かる。
電車を待ちながら真島の背をそっと掴んだら、ビクッとその背筋が伸びる。
こんなに一緒にいても、まだ緊張が解けないらしい。
「あ、あのね。俺まだ話したいことがあって…」
「ああ、俺もある。風呂入ったら寝るまで自由時間だろ。お前時間空いてる?」
「ぜ、全部空いてるっ!いつでも大丈夫っ」
コイツだって飯はあるし風呂もあるだろうから全部とかそんなわけねーだろ、とは思ったが、真島の勢いにつられてまた笑ってしまう。
昨日は苦しくてコイツのことで泣いたりもしたというのに、不思議とそんな苦しさはもうどこかへ行ってしまっていた。
真島はまだなにか言いたいことがあるようで、忙しなく視線を彷徨わせる。
どう見てもこれは何か言いづらい事を迷っているという顔だ。
ふと水族館デートの事を思い出してしまって、まさかまた何か記念にお揃いのものが欲しいとか言うんじゃねーかと、少し警戒してしまう。
正直今真島にそれを言われたら、もう断れる気がしない。
せっかく楽しい気持ちで一緒にいられるところに、もう波風立てるような事はしたくなかった。
「あ、そのね。高瀬くんにお願いがあるんだけど…」
なんだろう、とこっちが少し緊張してしまう。
コイツの表情は分かりやすいが、発言は突拍子もないから何を言われるのか予測がつかない。
真島はキュッと唇を一度引き結んでから、俺に向き直った。
「え、えっとね。もういっぱい送らないから…、スマホ禁止解いて欲しいんだけど…っ。だ、ダメかな」
「……」
ここ最近で、一番大きなため息がもれた。
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