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真島の手がそっと俺の襟をはだけさせたら、肩から浴衣がふわりと落ちる。
帯があるから腰までしか落ちないが、上半身が外気にさらされる。
正直俺としては内心居た堪れないほどバックバクと心臓が鳴っていたが、俺と同じくらい心拍数が上がっているであろう真島が物凄い勢いでガン見してくるから、逆に冷静になれるというか。
ほとんど薄闇で小さな明かり一つが俺達を照らしているだけだから、正直そこまで見えているのかどうかは分からない。
というかコイツこの間上だけなら見たよな。すぐ鼻血だしたが。
だが真島の視線は俺から一ミリも離れない。
「…どうしよう。…すごい綺麗」
「…バ、バカじゃねーの」
「触っていいのかな…」
熱に浮かされたように真島が俺の身体に釘付けになっている。
もっとがっついてくるのかと思ったら、なんだか神秘的な物でも見ているような反応をされて、逆にこっちが照れてくる。
ハッキリ言って俺の身体は別に綺麗なもんじゃなければ、どっちかというと貧弱な方だ。
スポーツやってるわけでもないから良い体してるとかでもないし、ガン見されるほどの価値はマジでない。
「み、見すぎなんだよ。触んねーならもう終わりな」
「ま、ま、待ってっ」
おずおずと伸ばされた手が俺の身体を優しく撫でる。
正直そんな触り方されるとくすぐったくて、思わず笑ってしまった。
だが真島は全く気にしていない様子で、俺の身体に合わせて屈むと腰を引き寄せる。
「…可愛い。大好き…はぁ、大好きだよ」
うわ言のように繰り返しながら、ちゅっ、ちゅと真島が俺の身体に口付ける。
「…っ」
そこまでされると、さすがに俺も変な気分になってくるというか。
だが真島は帯まで解くことはなく、再び落ちた襟を持ち上げると元あったように俺の浴衣を正した。
それからもう一度、ぎゅっと俺を抱きしめる。
「…ありがとう。俺のために、ここまでしてくれて…本当にありがとう」
大切なものを抱きしめるといった感じで、今度は優しく包み込むような抱き締め方をされた。
自然とその背に手を伸ばしたら、真島は酷く幸せそうにコツンと俺の額に自分の額を合わせる。
「…好き。高瀬くん、ね、ずっと一緒にいよう?」
甘やかされるように言われて、心臓が止まりそうになる。
一緒にいたい。
素直にそう思ってしまう。
「俺は他に何もいらない。高瀬くんだけが、俺の全てなんだよ」
心が震える。
優しくて酷く甘ったるい声音に、どうしようもなく頭の中の理性が麻痺していく。
すぐ近くで俺をしっかりと捉えて離さない瞳が、これ以上無いほど愛おしいといった視線を向けてくる。
「俺の持ってるもの、全部あげる。欲しいものがあったら、なんでも手に入れてきてあげる。絶対に、絶対に幸せにするよ」
胸にぎゅーっと切ない気持ちがせり上がっていく。
――もう、いいんじゃないか。
俺の中で、ふとそんな気持ちが芽生える。
一度そう思ってしまったら、それはじわりと瞬く間に俺の中に広がっていってしまう。
ダメだと止める気持ちが、どんどん崩れていく。
もういい。
もういいんだ。
もうやめる。
俺も真島に好きだって言いたい。
お前のことを大事にしたいんだって、言いたい。
こんなに好きなのに、我慢する必要なんかないんだ。
高校が終わったってずっと一緒にいればいい。
お互い両想いなのに、別れる必要なんかないんだ。
真島はきっと、ずっと俺を大好きだって言ってくれる。
「大好きだよ。ずっと、ずっと俺は高瀬くんだけだよ。卒業しても、10年経っても20年経っても、絶対に高瀬くんだけだよ」
絶え間なく俺に求愛する真島は、俺の心を必死で絆そうとしているんだろう。
俺が真島に触りたいと言ったことで、希望を与えてしまったのかもしれない。
いやそれ以前に、こんなに熱を持った顔で惚けたように真島を見る俺の気持ちに、気付いてしまったのかも知れない。
真島の手が俺の髪の毛をやわらかく梳き、その手のひらの感触に堪らなく目頭が熱くなる。
愛おしい気持ちが止め処無く溢れて、俺の心は絆されていく。
もう何も考えられず、意のままに口を開いた。
「まし…」
「――愛してる」
ズシリ、と身体中に響くような言葉だった。
真島は俺の耳元で、切なそうにその言葉を紡ぐ。
「…愛してる。高瀬くん、愛してるよ。誰よりも、何よりも――」
全身から溢れ出しそうな愛しさに、身体が震えた。
零れそうな涙を、必死で堪える。
こんなにベタな台詞でここまで心を震わせてくれる奴は、きっとこの先も絶対に現れないだろう。
大切だ。
真島のことが、本気で俺も大切だと思った。
コイツを幸せにしてやりたいと、そう思った。
そう再確認したら、俺はそっと口を閉じる。
それなら、言ってはいけない。
こんなに大事で、大切な奴の未来を、俺が奪ってはいけない。
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