アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
140
-
誰も落とす気はないがとりあえず盛り上げてやるかという謎の使命感が働いて、懐かしさを感じつつ場の空気を和ませる。
思えば真島を好きになってから、合コンどころかほとんど女子と絡むことすらしていない。
あれだけ途切れず女子と付き合っていたのに、あの頃の自分が今の自分を見たらぶん殴るレベルに今は真島一色だ。
連絡先交換まで済ませてそれなりに仲良くなってカラオケ店を出ると、もう結構いい時間だった。
これから飯を食いに行こうという話になったが、さすがにそこまで付き合う気はない。
それにもうすぐ真島から電話が掛かってくる。
当たり障りのない感じで俺は別れると、もう電気屋も閉まってるし家へ帰ることにした。
適当にコンビニで飯とアイスを買ってから、真っ暗な自宅の扉を開ける。
「あれ」
電気をつけたら古ぼけた扇風機が置いてあった。
きっと俺が帰るのが遅いから、耐えきれずどっかから引っ張り出してきたんだろう。
てかあるなら言えよ。
スイッチを入れてから、カリカリと音が鳴ってる窓を全開にする。
すぐに猫が入り込んできて、飯よこせと強請られた。
昼間よりは全然マシだが、入ってくる風は生温い。
なんだかさっきまでワイワイやっていたせいで、今この場所がやけに静かに感じてしまう。
まあ実際俺と猫しかいないから静かなんだが、妙に虚しさを感じてしまうというか。
ブーンという壊れそうな扇風機が首を回す音が、やけに耳につく。
――と、スマホが鳴った。
じわりと心が熱くなる。
ドキドキと確実に早まる心臓のままに、俺はスマホを取り出すと通話ボタンを押す。
『たっ…高瀬くん』
真島だ。
最近はずっと声しか聞いてないが、それでも変わらず真島だった。
「…おー、今日はどうだった?」
『きょ、今日も一日勉強だったよ。朝ご飯はスクランブルエッグとウインナーとトーストとね…』
この調子で真島は、いつも今日あった出来事の全てを事細かに話す。
それは特に何の盛り上がりもない話で、他の奴が聞いたら笑っちゃうくらいどうでもいい話だ。
それでも俺は真島のこの報告が大好きで、毎日それを聞くのがすごく楽しみだった。
『高瀬くんは、今日は何があった?』
「ん、俺はなー、エアコンが壊れた」
『ええっ!た、大変だ…』
真島が自分の事のように必死で動揺する声が伝わってきて、思わず笑ってしまう。
それから合コンでしたら一気に場が盛り下がるような、俺のつまらない今日一日の話を真島にしてやる。
『ご…合コン…』
真島が切羽詰ったような声を出したから、ああそれは聞こえが悪いか、と気付く。
「別に何もねーから。無理矢理行かされただけだし。気にすんなよ」
『う、うん…』
だが真島の声はどこか優れない。
ここで本当の恋人だったら『好きだよ』とか言って一言で安心させてやれんのにな、なんて思う。
俺は少し考えてから、また口を開く。
「お前に嘘つきたくねーからさ。だからわざわざ言ってやったのに、へこむならもう何も教えねーぞ」
『えっ!へ、へこまないっ。元気だよっ』
電話口の声が慌てたように取り繕う。
真島に最大の噓を貫き通している俺が言う台詞ではないかもしれないが、だからこそそれ以外の噓はもうつきたくなかった。
それからまた少し会話をしたら、真島の機嫌はあっという間に元通りになる。
単純な奴め。
『…あ、時間になっちゃう。早いなぁ』
「そうだな。また明日な」
『ま、待って』
真島は切ろうとすると、必ず一度引き止める。
どうせ引き止めるだろうともう予測が出来ていて、クスリと思わず表情を緩めてしまう。
『あの…今日も大好きだよ。すごくすごく、大好きだよ。忘れないでね』
「…忘れねーよ」
『絶対だよ。絶対に忘れないでね』
真島は念押しするようにそう言って、電話を切った。
夏休み前、俺が信じられないと言った言葉が効いているんだろう。
また俺がそんな台詞を言い出したらと、そう危惧しているのか毎日のように必ず好きだ大好きだ愛してるの後に忘れないでと付け加える。
それ以上に安心出来る言葉は確かになくて、俺の心は一瞬で暖まる。
――だけど。
電話を切りスマホを耳から外すと、急激に虚しくなる。
シンと静まり返るこの部屋で、あと一体何日真島を待てばいいんだろう。
合宿から帰ったって、アイツは本当に忙しそうで俺に構っている暇なんかないだろう。
ほんの一瞬の会話で満たされる気持ちの後には、必ずそれ以上の孤独感に苛まれる。
気持ちを紛らわせる何かを探して、俺はすり寄ってきた猫を抱きしめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
152 / 251