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家に帰宅する。
電気を付けて蒸し暑い家の中、窓を全開にする。
少しは風が入り込んできてマシになったが、それでも暑い。
気付けば空はすっかり真っ暗になっていて、もう星が出ていた。
そういえば猫が帰ってこない。
いつも電気つけたら速攻で帰ってきて飯を強請るくせに、今日はどこかでほっつき歩いているらしい。
スマホを見るが特に真島から連絡はなかった。
まだ電車に乗ってるんだろう。
もうあと数時間後には真島に会える。
俺は窓の縁に頬杖をついて、ぼんやりと外を眺める。
こんなに真島と会わない日が続いたのは、アイツと付き合ってから初めてだった。
考えれば真島と付き合ってから、本当によく一緒にいたと思う。
アイツは時間の許す限り、いつだって全力で俺と一緒にいたいと意思表示をして、俺もそれに応えてきた。
真島は忘れないでね、と何度も俺に言っていたが、時間があいたらどうしたって忘れてしまう。
触れられた感触も、俺を抱き締める温度も、どんなだったか記憶が曖昧になってしまう。
真島はまだ来ていないのに、もうずっとドキドキとしていた。
こんな気持ちでアイツに会って、俺は大丈夫なんだろうか。
真島の前じゃ絶対に泣くわけにはいかない。
電話とは違うんだ。
少し落ち着いて気持ちを切り替えようとした時、窓から猫が入り込んできた。
ようやく帰ってきたかと少し安心してから、餌をやるかと立ち上がる。
だがいつもだったら『はよメシよこせ』と言った視線を向けてくるのに、俺を素通りして歩いていってしまった。
あれ、と思って追いかける。
玄関先まで行くと扉をカリカリしていた。
帰ってきたばかりなのに外へ出たいらしい。
しょうがねーなとガチャリと扉を開ける。
「――えっ」
すぐ目の前に、真島がいた。
肩で息を切らせて、扉の前に立っていた。
あまりにも突然すぎて、お互いに時間が止まったように見つめ合ってしまう。
何度見てもテレビで見るような整いまくった顔立ちに、一点の濁りも感じられない真っ直ぐな瞳。
さらりと揺れる細い髪から、一筋の汗が滴り落ちる。
心の準備が本気で全く出来ていなくて、真島の顔を見つめたまま放心してしまう。
ニャーと呑気な声で猫が鳴いた。
見れば真島が持っている旅行鞄に、必死で猫が縋り付いているのが見えた。
なるほど、コイツなにか猫にまで土産買ってきたらしいな。
一周回って逆に冷静になっていたら、突然伸びてきた両手にガバリと思いきり抱きしめられた。
「お、おいっ。こらっ」
「た…高瀬くんだっ。高瀬くんだ…っ」
切羽詰まったような、真島の声。
すぐ耳元で聞こえるが、これはもう電話じゃない。
身体いっぱいに広がる久々の真島の匂いと、痛いほどに抱き締められる力強い感触。
骨がミシリと音を立てるような、あのいつもの馬鹿力。
俺より少し高めの体温。
――真島だ。真島が帰ってきたんだ。
放心していた気持ちが、一気に崩れていく。
忘れていた感情が、堰を切ったように次々と呼び覚まされていく。
一度実感したらあっという間に心が震えて、身体が酷く熱を帯びていく。
「ただいま…高瀬くん。ただいま――」
おかえり、と返そうとした言葉はうまく発する事が出来なかった。
胸がいっぱいで、込み上げる気持ちに喉が震えた。
俺は必死に真島に応えるように頷いて、力いっぱいその背中を引き寄せた。
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