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飯を食い終わって、少しのんびりしてから自室へ行くことにする。
真島は俺の歯みがきの世話までしてこようとしたから、それは出来るとその顔をぐいと押しのける。
このままだとそのうち俺の排泄の世話すらするとか言ってきそうだ。
コイツに許す限りの全てを任せたら、きっと俺は座っているだけで事足りる人生になるだろう。
自室へ行って真島の布団を引いてやろうと思ったが、やめた。
ひょこひょこ後ろについてきた真島へ振り向くと、何気なく口を開く。
「一緒に寝ようぜ」
真島の顔がぶわっと一瞬で首まで赤くなった。
シングルベッドで男二人とかくっそ暑苦しそうだが、俺の部屋はそこそこに風通しが良い。
なにより暑くても一緒に寝たかった。
持ってきた壊れかけの扇風機を付けてから、電気を消して二人でベッドに寝そべる。
枕元の間接照明だけ付けると、ぼんやりと優しいオレンジ色が小さく灯る。
「…あれ、緊張してんの?」
真島と向き合うようにして横になると、薄闇の中ガッチガチに息を詰めてる真島と目が合った。
お前は古き良き時代の結婚初夜を迎えた女子か。
というかさっきまでお前の方が俺を襲おうとしてたんじゃないのか。
「し、してる…。大好き」
また取り留めもない告白をされて、目を丸くする。
もうずっと緩みっぱなしの心がまた一つ、絆されていく。
俺も大好きだよ。
リン、と風鈴の音が響き、気持ちのいい風が窓から入り込む。
二人で一緒に掛けている薄いタオルケットを俺は少し引き上げる。
扇風機の風もあって、暑苦しさを感じること無く寝れそうだ。
「…寒い?」
「そんなわけねーだろ」
真島はじっと隣で俺の目を見つめていて、俺も視線が逸らせなかった。
そっと顔の前にあった手を握られて、指を絡められる。
ドキドキと心臓がまた早まっていくのを感じる。
すごく大切で、尊さすら覚える時間。
「…なあ、去年の夏休みもお前が泊まったの覚えてる?」
「お、覚えてるよ」
つい思い出してしまう。
あの時は別の布団に寝てると言うのに、それでも真島はガッチガチに緊張していた。
「お前あの時寝れたのか?」
「…ね、寝れなかったよ」
繋いでいる手のひらをきゅっと握られる。
何か思い出したんだろう。
触れていると、表情以外でも心が伝わってくるようだ。
「今日は寝れそうか?合宿終わって疲れてるだろ」
「ん…どうかな…が、頑張る」
困ったように視線を彷徨わせたから、愛しくて表情が緩んでしまう。
そんな俺の顔を見て、真島が切なげに息を吐き出した。
「…夢みたい」
「まだ寝てないぞ」
「お、俺もう寝てるのかな…?朝起きて高瀬くんいなくなってたら…」
「ばーか。ちゃんとそばにいるよ」
思ったより甘い響きをもった言葉に、真島の目が驚いたように揺れる。
じわりとその瞳から一筋の涙が零れる。
一筋溢れたと思ったら、次から次へと溢れ出す。
それでも真島は俺から視線を外さなかった。
「あーあ、泣き虫」
「た、高瀬くんが…っ。高瀬くんが…っ」
「うん、俺が悪いな」
「……っ」
真島の目から溢れる涙を指先で拭ってやってから、手を伸ばしてその身体を引き寄せてやる。
真島の頭を抱き込むようにすると、俺の腕の中で甘えるように縋り付いて真島はしばらく泣いていた。
――そう、全部俺が悪い。
真島の気持ちを弄んでいると、分かっている。
好きだと言わないくせに、真島の気持ちを逃さないための言葉を紡ぎ続ける。
これじゃ真島の未来を願って別れようとしているくせに、自分を忘れないでと必死になっているみたいだ。
好きと言わないのなら、真島と一緒にいる未来を取らないのなら、そろそろこうしているのも潮時なのかも知れない。
今回真島と会えなくて、どれだけ自分の世界が真島中心になってしまっているのかが、嫌というほどよく分かった。
残りの時間は真島と一緒にいるための時間ではなく、真島を忘れるための時間に使わないと、きっと間に合わなくなってしまう。
それでもまだ、もう少し。
あともう少しだけ。
グスリと鼻を啜る真島が愛しくて、その髪に頬を寄せる。
「…た、高瀬くんね、去年俺に言ったんだよ」
不意にぽつりと真島が呟く。
真島は少し身じろいで、俺の腕の中から顔をあげた。
「俺が高瀬くんのことを…あ、飽きたらどうするのって」
「え、そんなこと言ったっけ…」
「い、言った。俺高瀬くんの言葉は全部覚えてるよ」
こえーよ。マジで適当なこと言えねーな。
というかどんだけ記憶力いいんだコイツは。
「そ、そんなことありえないのに…今思い出したら悲しくなっちゃって…」
ぼたぼたとまた涙を流す。
あーあ、なんかついでに色々スイッチ入ってしまったみたいだ。
どうやって機嫌取ってやろうかなと思いながら、あやすように髪を撫でる。
「もうそんなこと言わねーよ。お前の気持ちはちゃんと分かってるから」
そう言ったら、真島は安心したようだった。
キスをねだられて、受け入れる。
優しく触れて、何度も唇を押し付けられる。
触れるだけなのに気持ち良くて、堪らなく真島の頬に手を伸ばすと、応えるように指先にもキスをされる。
ぼーっとする頭で真島を見たら、今度は幸せすぎて泣いているらしい。
相変わらずコロコロ感情が変わる奴だ。
「…高瀬くん、大好き。俺の気持ち、忘れないでね。絶対に忘れないでね」
電話でずっと言っていた『忘れないで』という言葉。
それは俺を信じさせるための、大切な言葉。
「――例え高瀬くんが俺を好きになってくれなくても、俺はずっと高瀬くんを好きでいるからね」
そう言って真島は、涙を零して綺麗に微笑んだ。
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