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今月、実際忙しいのは真島より俺の方だった。
就職希望の俺は、9月に入社試験がある。
もう受ける会社は決まっていて、夏休み中に学校を行き来して必要な書類も提出してある。
母親は大学行きなよとなぜか最後までゴネてたが、金の面は置いといても俺自身が別に行きたいわけでもなかった。
それより就職して、さっさと金を稼げるようになりたい。
わりと真面目に面接練習だけはして、時間が合った昼休みには真島相手にもした。
真島は面接官用の資料を見ながら、緊張した面持ちで俺に質問をする。
お前が緊張してどうする。
「じゃ、じゃあ長所をお願いします」
お前に好かれている所かな。
と思いながらテンプレではなく、それなりに工夫した面接用の言葉で返す。
真島はヒビヤンと違って、こういう時は茶化さず真面目に見てくれる。
というかそもそも真島が俺を茶化したことなんか一度だってないが。
特進科は面接慣れしているらしいし、俺相手だからといって遠慮はせず駄目なところはハッキリ言ってくれるから、予想外に助かった。
「はぁ…。どうしよう。緊張して心臓が破けそう…」
面接練習を終えて、真島が悩ましげに胸に手を当てている。
お前が採用試験を受けんのか。
真島は俺の進路について、特に何か深く聞いてきたりはしなかった。
俺としては真島がどこの大学受けるのか気になっている部分はある。
あれだけ勉強してるとなると、相当いい大学を狙っているような気はひしひしとしている。
だがその頃には真島ともう付き合っていないんだと思えば、未来の話を聞く気にはならなかった。
そうしているうちにあっという間に就職選考試験は始まる。
試験の前日は真島が飯を作りに来てくれて、二人で遅くまで面接練習や筆記対策をした。
さすがにその時ばかりは、真島も俺に如何わしいことはしてこなかった。
試験が終われば9月の最後にあっさりと内定通知を貰って、俺の進路は敢え無く決まった。
これで残りの高校生活は、ずっと遊び呆けていいということになる。
「おめでとう、高瀬くん。おめでとうございます…っ」
真島は自分の事のように大喜びしてくれて、その日はご馳走にケーキまで作ってくれた。
少しはやる気出したのもあったから、俺も素直に嬉しかった。
真島と付き合っていなかったら、こんな風に家に帰ったらすぐに祝って貰えて、恥ずかしくなるほど嬉しい気持ちになるなんて事もなかっただろう。
コイツは俺に、本当にたくさんの幸せを与えてくれる。
「…高瀬くん、今日は高瀬くんに触ってもいい?」
熱のこもった視線を送られる。
ここ最近は俺の方が真島に構えなかったら、物足りなくてしょうがないんだろう。
俺の方も正直真島に触りたいと心が酷く求めてしまっていたが、それでも俺はもう自分からは触らないと決めていた。
だからこそ真島が手を伸ばしてくれないと、その温もりを知ることが出来ない。
「いいよ」
そう言ったら、すぐに伸びてきた両手に抱き締められた。
久しぶりのキスは甘いケーキの味がして、どこの少女漫画だよと思いながらも当たり前に与えられる愛情に心がずぶずぶになっていく。
「…好きだよ。愛してるよ」
一言一言に、痛くなるほど心臓が震える。
あっという間に目頭が熱くなって、俺は泣き出しそうな顔を俯かせる。
真島が抱きしめてくれる感触に、堪らなく心が揺さぶられる。
一緒にいたいと、好きなんだとまた口に出してしまいたくなる。
だけど不意に身体を離されて、心地良い真島の体温が失われる。
「…ど、どうしてそんな顔するの?」
落ちてきた言葉に、身体が強張った。
ゾッとするような冷たさが這い上がって、さっと視線を逸らす。
まさか顔に出ていたなんて、気付かなかった。
それもあの鈍感すぎる真島に気付かれる程とか。
「――た、高瀬くん?」
「あ…悪い、いや、別になんでもない」
「な、なんでもないことないよ。その…俺何かしたかな」
「何もしてないって」
真島に気付かれるわけにはいかない。
そう突っぱねたが、納得してない顔で見下ろされた。
だけどもう真島の機嫌を取ることは出来ない。
差し伸べる手のひら一つで機嫌が直るような奴だが、俺がそんな事をしても何にもならない。
真島は不安そうな顔をしたが、再び俺を引き寄せる。
今度は優しく抱きしめてくれた。
「…お、俺何か間違ったかな。大好きだよ。大好きなんだよ」
「…うん。知ってるよ。お前の気持ちは、ちゃんと分かってるよ」
いつの間にか真島の手のひらは冷たくなっていて、心が突き刺すように傷んだ。
分かってくれ。
全部お前のためなんだよ、と必死に自分に言い聞かせることで、泣きたくなる気持ちを抑え込んだ。
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