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「お前が何考えてるのか知らねーが、それでも奏志のためなんだと思って黙ってた。けど、本気じゃねーっていうなら今すぐ別れろ」
「はぁ?なんでお前にそこまで指図されなきゃいけねーんだ」
離せ、と俺の腕を掴んでる手を振り払う。
だがコイツは離さなかった。
綺麗な顔を歪めながら、青い瞳が真っ直ぐ俺を見つめる。
「別れたくないんだろ。ならなんで奏志を好きだって認めない」
「だから認めてどうすんだ。真島と卒業式に別れることは変わらねーし、アイツと今すぐ別れる気もない」
「――変な意地張ってんじゃねーよ!」
荒げた声と共に、貞男の手が俺の胸ぐらを掴む。
そのまま背後の壁にドンッと押し付けられた。
思い切り押し付けられたせいで、背中に鈍い痛みが広がる。
「…ってーな。何すんだよっ」
適当にかわそうと思っていたが、ここまでされるとさすがにこっちも苛立つ。
貞男は全く悪びれる様子もなく続ける。
「なんでアイツを好きだって認めない。男同士だからってビビってんじゃねーよっ」
そう言われてカッと頭に血が上った。
何も知らないくせに、何でコイツにそんな事を言われなきゃいけねーんだ。
「お前だって真島に告白できねービビりだろうが。自分の事を棚にあげて人に説教垂れてんじゃねーよっ」
「……っ、俺はお前とは違う。奏志の気持ちを組んでやっているだけだ。でもお前のはそうじゃねえだろっ」
「同じようなもんだろうが。真島に言えないことを、俺にいちいち押し付けにきてんじゃねーよ」
勢いのままそう言ったら、貞男が押し黙る。
その唇は怒りからか密かに戦慄いていた。
一瞬の沈黙の後、不意に静かになった貞男の声音が空気を震わす。
「…俺とお前が同じだと?ふざけんなよ」
どこか愕然とした表情で、だがその瞳は俺から一秒たりとも揺らがない。
「最初から奏志に愛され続けてるお前と俺とじゃ、全然ちげーんだよっ――!」
耳がキーンとするような大声で怒鳴られた。
貞男の顔は今までに見たことないほど、苦痛と葛藤が滲んでいた。
その表情にコイツがどれだけ俺に言いたくない言葉を言っているのかが、嫌でも分かってしまう。
コイツは真島が好きで、それなのに真島のために余計な世話を焼いている。
こんな敵に塩を送るような事を言いたくないのは当然で、それでも真島の幸せのためならと自分の心を押し殺しているんだろう。
俺と似ているようでいて、だが明らかに違うのは真島の気持ちだ。
言葉一つで真島の気持ちをいくらでも手に入れることの出来る俺が、貞男の苛立ちを煽るのなんか当たり前のことだった。
「お前が奏志を受け入れる気がねーなら、今すぐアイツを切れよっ。これ以上苦しめるような真似するんじゃねえ!」
貞男の言っていることは、正しい。
だが俺も自分の行動を曲げる気はなかった。
それに真島とは約束がある。
これ以上部外者に口出しされて、俺が必死に堪えているものを全て台無しにされるつもりはない。
「…ああもうめんどくせーな。ならハッキリ言ってやるよ。真島が俺を好きだって言うから付き合ってやってんだ。アイツの気持ちなんか知ったこっちゃねーんだよっ」
そう、真島が俺をどれほど好きだろうが関係ない。
アイツが俺をいくら好きだ愛してると必死に言おうが。
俺しかいないんだと、他には何もいらないんだと泣き縋ろうが。
この先もずっと俺だけを好きでいると、バカじゃねーのとツッコミたくなるような嬉しい言葉をくれようが。
それでも俺はアイツのために別れる未来が、一番正しい道なんだと信じている。
「――なんだとこのクソ野郎!」
貞男がそう叫んだと同時、ガツッという音と共に目の前に火花が飛んだ。
貞男に殴られたんだと知って、こっちもカッとなる。
思いっきりその頬を殴り返して、二人で取っ組み合いになる。
体育館にいた生徒が何か騒いでいる声で気付いたのか、慌てて止めに入ってきた。
それでも手を伸ばしてくる貞男に、俺も完全に頭に血が上っていた。
真島に対する苦しさや、辛さや、我慢していた気持ちが、全部そこに変換されてしまったんじゃないかというほど目の前が真っ赤になっていた。
「ちょっ…ちょっと…!な、何やってんすかっ!」
七海もいたらしく俺達はようやく引き剥がされる。
肩でゼイゼイ二人で息をしながら、睨み合う。
「な、何があったんですか。この間まで仲良く宿題やってたじゃないっすか…」
慌てたように宥められたが、俺は弁当箱を貞男に放り投げるとチッと舌打ちして踵を返す。
殴られた頬よりも、胸の痛みの方がずっと痛かった。
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