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「――っ」
翌日、昼休みに俺の元へ来た真島は案の定絶句していた。
みるみるうちにその顔が真っ青になって瞳に涙が溜まっていったので、慌てて屋上へと引っ張る。
「お前授業は――」
「そんなのどうだっていいっ。どうしたの。何があったの?」
触れるか触れないかの距離で、真島が俺の頬に手を伸ばす。
俺の百倍は痛々しい顔をした真島が、自分の事のようにぼろりと涙を零す。
ああくそ、いちいち泣くな。
俺の事なんかで、もう涙流すな。
「…こ、転んだ」
「ええっ!も、もう絶対一人で歩かないでっ。俺朝も夜も全部送り迎えするから…っ!」
どう考えても無理な言い訳だが、コイツが俺バカで良かったと心底思う。
相手がいるなんて言ったら、真島が何しでかすか分かったもんじゃない。
真っ青な顔で俺の言葉を信じて心配する真島は、どうして今まで送り迎えしなかったんだろうと頭を抱えて後悔しているレベルだ。
コイツは本当に俺の言葉を、一つたりとも信じて疑わない。
それが良いことなのか悪いことなのかは置いといても、俺を疑うという選択肢がまずないらしい。
本当はお前のことで殴り合いしたんだ、なんて言ったら真島は気絶するんじゃないだろうか。
「ああいや、マジで送り迎えとかすんなよ。過剰に心配して付いてきたら怒るからな」
「嫌だよ…っ。こんな姿見せられて心配しないほうが無理だよ…。もうどこにも行かないでっ」
真島は震える手で俺の頬にそっと触れる。
なんだかともすれば閉じ込められてしまいそうだ。
真島の過保護っぷりが更に成長を遂げそうで怖いんだが。
そういえば貞男は一体真島にどんな言い訳をしたんだろう。
真島は同じように貞男に触れて、心配したんだろうか。
「…高瀬くん。お願いだから、もう俺の目の届かないところにいかないで」
「いやそれは無理だろ」
「う…でも胸が苦しいよ。高瀬くんを見ていないと、不安でしょうがないよ」
真島は俺に言い聞かせるように、お願い、とキュッと手を握ってきた。
お願いされたって無理なもんは無理だ。
本当は今すぐ抱き締めたいのを堪えているようで、俺の身体を心配しているんだろう。
すぐ鼻の先でふわりと真島の香りを感じて、無性に触りたくなってしまう。
その背に両手を回して、大丈夫だと、心配すんなとたくさん甘えて安心させてやりたくなる。
「すごく大事なんだよ。高瀬くんの身体を、簡単に傷つけたりしないで」
「…大袈裟なんだよ。これくらいすぐ治るし」
「うん。うん、そうだといいね。すぐ治るといいね…」
真島は切なげに息をもらして、俺の頬から目元へ、耳へと愛おしげに指先を滑らせる。
大事にされている事を、強制的に覚え込ませるような仕草。
「…高瀬くん、痛くない?何か辛い事があったら言ってね。俺なんでもするからね」
耳を震わせるような優しい声音に、心臓が熱くなる。
コイツはこんな少しの触れ合いでも、簡単に俺の心をぐずぐずにする。
真島の過剰なまでの愛情を、身体が既に心地の良い感覚として覚えてしまっている。
目の前の形の良い唇を見上げて、キスしたい、なんて思ってしまった。
なんでもしてくれるなら、今は真島の唇が欲しい。
きっと俺は今、無意識に酷く物欲しそうな顔をしてしまっている。
「……っ」
真島がハッとしたように息を飲んで、顔を赤くさせる。
伸びてきた指先が俺の唇を優しくなぞり、心の内がバレてしまったのかと思った。
確かめるようにふに、と押され、唇の割れ目に指を立てられる。
素直に唇を開けて受け入れ、真島の指先を口に含む。
入り込んできた指先が俺の舌を優しくなぞり、浅く舌先をくすぐられて背筋が堪らなくゾクゾクとした。
真島の視線が釘付けになったように俺の唇を見つめて、色気を含んだ視線に頭が痺れる。
「…っごめん」
指を引き抜かれて、すぐにキスされた。
押し付けるだけの優しいキス。
それからコツンと額を合わせられて、熱に浮かされたような視線で見つめられる。
「…ご、ごめんね、嫌だったかな。痛くないかな」
こんな近い位置で甘く囁かれたら、頭が蕩けてしまう。
もっと欲しいと、こんなんじゃ全然足りないと強請りたくなる。
回らない頭で「大丈夫」と呟いた言葉は予想外に熱を持って掠れてしまったが、良かったと合わせた額をゆるく擦られた。
「嫌なことあったら、すぐ言ってね。…その、何か隠したりしないでね」
貞男の言葉通り、おそらく真島もここ最近俺が触れようとしない事を、どこか感じ取ってしまっているんだろう。
だけどそれでいい。
直接口に出しては言えないから、こうやって少しずつ真島も俺の気持ちに気付いて、離れる覚悟をしていってほしい。
卒業式まで、あと5ヶ月。
時間はどんどん過ぎていく。
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