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卒業式、前日。
この最後の一日を真島とどうやって過ごしたのかは、正直覚えていない。
ただ真島に明日告げる言葉を、何度も何度も頭の中で反芻させていた。
最後の日を何でも無いように終わらせてやろうと、ずっとその覚悟をしていた。
いくらあのストーカー気質の真島が泣き縋ってこようが、絶対に離さないと言われようが、そんな事はもう想定済みだった。
俺と真島のために言ってくれた友人達の言葉は、しっかりと胸に刻み込まれている。
その上で何度も悩んで、だけどやっぱり俺の気持ちは今日まで変わらなかった。
きっと明日は今までで一番苦しい日になるだろう。
だけど明日全てをちゃんと俺が終わらせられれば、真島は正しい道を歩んでいける。
明日のことを考えると、体がガタガタと震えた。
必死に抑え込んでも、どうしようもなく止まらなかった。
吐き出した呼気がヒクリと揺れて、なんとか飲み込む。
怖い。
怖いんだ。
真島に別れを告げるのが怖い。
苦しげに歪む顔を見るのが怖い。
縋りつかれる言葉が怖い。
――真島がいなくなるのが、怖い。
身体から血の気が引いていく。
手足の感覚がなくなって、もう心が壊れてしまいそうだった。
それでも全てが終わるまでは、ちゃんと自分を崩さないでいる。
しっかりと伝えて、全部明日終わりにしよう。
大丈夫。俺なら絶対に真島に言えるし、真島を信じさせられる。
なぜなら俺は可愛らしい女の子でも、生まれが不遇な病弱男子でも、心か弱き草食男子でも無かったはずだ。
俺は最初っからただの最低野郎で、どうしようもなく人の共感を得られないほど、ふざけた奴だったはずだ。
元々過ぎて持っていたものが、全て元通りになる。
ただそれだけのことだ。
一睡もできぬまま暗闇が薄れ、僅かな日差しが夜明けを告げていく。
朝まで震えが止まらない身体を、必死に押さえつけた。
窓から見える満開に咲く桜の花びらを見下ろしながら、止め処なくせり上がる気持ちに見ないふりをした。
最後の日になる。
――卒業式が、やってくる。
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