アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
7
-
「お前童貞だろ」
「えっ!なんで分かったの」
なんで分かったの、じゃねーよ。
お前の最初の行動は俺の中二の夏の初体験にそっくりだ。
情事後、奏志が風呂を張ってくれて、俺はそこに抱きかかえられて連れてかれた。
結局あの後何度か身体を重ねて、もう俺の腰はガクガクだった。
恥ずかしい、嫌だと言っているのに中に入ってるモンをしっかり掻き出されて、暖かい湯船に浸からせられる。
「…あの、本当にごめんね」
「別にもういいって何度も言ってんだろ」
なんだかんだ俺だってイッたし。
男二人で入るにはさすがに狭いので、奏志は浴槽の外で俺の髪を撫でながら縁に頬杖をついて俺を眺めている。
「俺はね、全部梅乃くんが初めてなんだよ」
「…は?」
「えっちもだけど…キスも、抱きしめるのも、デートするのも、恋をするのも全部梅乃くんが初めてなんだよ」
「…マジ」
正直驚いた。
こんなイケメンのくせに、今までそんなことに一度もならなかったとか。
確か付き合いたての頃にコイツにゲイなのかどうか聞いた時、好きになったのは俺が初めてだとか言っていたのは聞いた。
でも『男は』という意味だと思っていて、まさか文字通り全て俺が初めてなんて思いもしなかった。
「俺には梅乃くんがね、最初で最後の大切な人なんだよ」
髪を撫でる手が頬に滑り落ちる。
顔が熱くなって、奏志はそれに気付いたように俺の頬を優しく撫でてくる。
「大好きだよ。今日はごめんね。それから…俺に身体を許してくれて本当にありがとう」
愛おしむような笑顔にどうしようもなく心が震える。
俺は緩く首を振って、頬に触れられた奏志の手に自分の手を重ねる。
「…俺も好きだよ。俺も…お前が…っ」
なぜだか言いながら涙が溢れてきた。
今日散々泣かされて、涙腺がもう緩んでしまっているんだろうか。
泣きたくもないのに自然と溢れる涙は、コイツがそばに居てくれる幸せなんだと知った。
俺はもう一人じゃなくて、こんなに大好きで愛してくれる人がいるんだという現実に、涙が零れてどうしようもなかった。
「泣かないで。ごめんね。本当にごめんね」
「…違う。お前が悪いとかじゃなくて…」
「ううん。ごめんね。大好きだからね。愛してるからね」
一度溢れ出した涙は止まらなくて、俺は奏志の優しさにグズグズに甘えてひたすら心地の良い愛情をもらっていた。
風呂を出ていつもどおり髪を乾かされ爪を切られ耳かきをされ、ご飯作るねと奏志は俺をソファに寝かせてキッチンへ向かう。
離れていった温もりに思わずシャツを引っ張ると、ハッとしたように戻ってきて抱き締められた。
「どこにもいかないからね。すぐご飯作って戻ってくるからね」
もうドロドロに甘やかされすぎて、完全に無意識の行動だった。
ぼーっと奏志の後ろ姿を見つめていると、ふとじとっとした猫の視線に気付く。
なんだかその視線に居た堪れないものを感じて、ハッと俺は現実に返ってきた。
あぶねえ。危うく今俺はアイツにダメ人間化されるところだった。
しっかりしろ俺。アイツは天然ドSの強姦魔だ。
鈍い腰の痛みを感じつつ、ソファに横になりながらぼんやりと天井を見上げる。
卒業式を終えて、アイツとついに身体を重ねて、色々あったけど一緒にいる幸せを噛み締めて。
風呂場での話は正直驚きもあったが、嬉しくもあった。
自分が好きな奴の最初を全部貰っているという気持ちは、男であれば誰だって嬉しいはずだ。
だがふと疑問にも思う。
あれだけのイケメンで今まで何もしたことがないなんて、ありえるだろうか。
もちろん奏志が噓をついているなんてことは微塵も思わない。
だがそういえばアイツは今までどこへ行くにも初めて、というような顔をしていた。
カラオケも、水族館も、祭りすら行ったこと無いと。
俺がそれについて疑問な顔をすると、困ったような笑顔でいつも笑い返されていた。
アイツには一体どんな家庭環境が――。
「梅乃くん」
「…あ?」
ふと名前を呼ばれて顔を向ける。
ニコニコとした顔が覗いていて、不審に目を細める。
「あっ、な、なんでもないんだよ」
よく分からんが戻っていった。
さすがに飯が出来るにはまだ早い。
ものの数分後、また「梅乃くん」と奏志が顔を覗かせる。
なんだと顔をあげたらまたなんでもないと戻っていく。
それを数回繰り返されて、俺はアイツの意図に気付いてなんとも言えないむず痒さにカッとなった。
「梅乃くん」
「あーもううるせえっ。いいからさっさと飯作れっ」
「わっ、ごめんなさいっ」
大方俺が寂しがっていると思って顔を覗かせに来てるんだろうが、残念ながらダメ人間モードの俺はもう終わっている。
それでもアイツのくだらない気遣いに心が緩んで、怒鳴ってから人知れず顔を綻ばせる。
一人ぼっちの夜はもう俺にはなかった。
番外編『卒業式を終えて』完
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
213 / 251