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電車に乗ってビル立ち並ぶ都内の一角。
俺の仕事はただの百貨店の営業職だ。
営業とかだるいし向いてないと担任に言ったのに、絶対に向いていると言う謎の推しでまあいいか、と適当に決めた。
覚えることはたくさんあるが、始めてみれば確かに机に齧り付きの業務よりはまだマシかもしれない。
人付き合いもコミュ障じゃなきゃ苦でもない。
有り難いことに俺の部署は人間関係もそう悪い雰囲気でもなく、一週間もすれば俺はすんなりと馴染むことが出来た。
当面は俺の世話役になっている先輩について回るような感じで、一つずつ慣れない仕事を覚えていく。
世話役の先輩は話しやすく面倒見の良い人で、打ち解けるのはあっという間だった。
「高瀬、今日飯付き合えよ」
外回りで少し残業となってしまった夕暮れ時、先輩に誘われた。
今日は唐揚げ待ってんだよな、とは思ったが入ったばかりで先輩の誘いを断るのもアレだ。
新卒の歓迎会は別の日に予定されていたが、ここは大人しく付き合っておくかと俺は一つ返事で了承した。
奏志に遅くなるから帰れとメッセを送って、先輩と適当な居酒屋に入る。
「そういやお前高卒なんだっけ」
「別に付き合いますよ。酒くらい」
「ダメだ。ジュースでも飲んどけ」
子供扱いしやがって。
片方シラフとかつまんねーだろと思いながら先輩の酒飲み相手に付き合わされる。
周りを見ると仕事帰りのリーマンだらけで、自分ももう学生ではなく社会人になったんだなとしみじみ思ってしまう。
どうにもまだ馴染まないスーツが煩わしい。
ちなみにスーツは奏志と一緒に買いに行ったが、店に入ったら俺そっちのけで奏志がなぜか採寸されていた。
モゴモゴと断りきれず勝手に試着させられていた奏志のスーツ姿は、店員を卒倒させるまでに似合っていたなと思い出す。
「はは、まだ子供みてーだな」
「えっ、なんすかいきなり」
先輩は煙草に火を付けてどこか面白そうに俺を眺める。
恐らく20代後半くらいだろうが、煙草を吸う仕草や酒を煽る所作、同年代とは違ってしっかりと余裕のある姿は大人の色気が垣間見えて、確かに言われてもしょうがないほど随分大人に見えた。
俺も10年くらい経てばこんな風になるんだろうか。
微妙にいじられつつ仕事のことや当たり障りのない話をしながら先輩との食事を終えると、もう結構良い時間だった。
ぐでっと電車の椅子に寝そべる酔っ払いのオッサンを視界にいれて、こっちにはなりたくねーなと思いながら電車に揺られて帰る。
メッセも送ったしきっともうアイツは家に帰っただろう。
飯リクエストしておいて食えなかった事を、後でちゃんとフォローしないと、なんて思いながら改札を抜ける。
「――梅乃くんっ」
聞き慣れた、耳を震わせる低音ボイス。
驚いた。
駅前のベンチで、奏志が待っていた。
「…あれ、お前なんで?帰れっつったろ」
「あ、その、時間が遅いから心配で…。こんな遅い時間に夜道で一人なんて危ないよ」
「…全くお前って」
本当に過保護だ。
だがじわりと心が熱くなる。
一日仕事をしてきて、その終わりに好きな奴に会えるなんて最高のご褒美だ。
なんて思ったが、ふと俺は奏志の顔を見て首を傾げた。
「お前どうしたんだよ。その顔」
綺麗な顔にひっかき傷が付いていた。
大事な商売道具に何勝手に傷つけてんだ。
「…あ、ちょっと。猫さんに構いすぎちゃって」
間抜けな理由にぶふっと笑ってしまう。子供か。
さっきまで俺をからかうような大人と一緒にいたせいで、奏志の言葉に癒やされる。
夜道だから暗いし手を繋いでもいいかな、という奏志にいいよと返事をして俺からその手を取ってやる。
どうしようもなく唇を緩ませて嬉しそうな横顔を見ると、自然とこっちも表情が綻んでしまう。
繋いだ指先はお互いに熱を持っていて、心臓の音が伝わってくるようだった。
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