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番外編 side真島『ベタボレ王子の高校時代』
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「うめのーん、暇だったらこれからカラオケいこーよ」
「おー、いいよ」
ガシッと彼の腕をとる女の子を羨ましいと思った。
「高瀬ー、合コン行かね。人数足りねーの」
「おー、いいよ」
簡単に遊びに誘える男友達を羨ましいと思った。
「おい高瀬、そのピアスはなんだ。制服もだらしない着方をするな」
「おー…ってうわっ、さーせんっ」
彼に話を持ちかけられる教師を羨ましいと思った。
何度も深呼吸をする。
どれほどしても心臓の音は鳴り止まない。
でも今日こそは。
今日こそは絶対に彼に話しかける。
高校に入ってもう一年。
中学では結局話しかけられなかったけど、それでも絶対に彼と友達になりたいから同じ高校に入った。
レベルが低いと両親に大反対されて、幼い頃から逆らったことは一度もなかったけどそれだけは譲れなくて、家庭問題にまで発展しかけたけどなんとか認めてもらった高校。
それなのに俺は、まだ彼に話しかけることが出来ずにいる。
あまり人には言いたくないけれど、俺の家は父親が大企業の社長ということもあって子供の頃から勉強や習い事に関して行き過ぎな英才教育を受けてきた。
父も母も仕事で家にはほとんどいなかったけど、少し歳の離れた兄や姉と共にみっちり組まれた習い事のスケジュールを物心ついたときからひたすらに強いられてきた。
兄も姉も両親の望んだ通りの進路に進んで、兄は父の会社へ、姉は医学の道へ進んでいる。
この高校に入るために許された条件は、兄も姉も通ってきた某一流有名大学に必ず入学すること。
そしてもし入学することが出来なかったら、父親の紹介で卒業後は海外の大学へ行かされる事が決定している。
もしそんなことになったら彼に会うことも叶わない人生になってしまう。
ただでさえ友達でもなんでもないのに、一生接点がなくなってしまう。
「高瀬ー、3組の松田がメイド喫茶で働いてるらしいぞ。今日寄って帰んね」
「マジかよ。仲良くなればメイド合コン出来んじゃね」
「ぶっは、お前天才」
バクリ、と大きく心臓が跳ねる。
目の先で彼が友達と歩いていて、なにか楽しげに話をしている。
どうしよう。笑った顔がたまらなく可愛い。
どこかめんどくさそうに歩く姿がたまらなく可愛い。
ふわあ、と欠伸をする仕草もたまらなく可愛い。
ああ、好きだ。大好きだ。本当に大好きだ。
どうしよう。どうしよう――。
ドキドキして、緊張で足が竦む。
こんなに緊張することなんて、彼の前以外では一度だってない。
中学受験でも高校受験でも今までやってきたスポーツの大会やピアノのコンクール、その他大勢の前に出る機会は沢山あったけど一度だって緊張したことはなかった。
それなのに彼の姿を見るだけで身体は火が出そうなほど熱くなって、動かし方を忘れてしまったように身動きが取れなくなってしまう。
「あれ、プリンスじゃん。なんか突っ立ってお前の事見てね。まさか高瀬知り合いかよ?」
「はぁ?」
こちらに向かって廊下を歩きながら、隣で彼の友達が話しかけている。
気怠そうなその目がチラッとこっちへ向けられる。
――瞬間、ぶわっと全身に電流が駆け抜けたような感覚が走った。
彼と目が合って、呼吸が、心臓が、時間が止まる。
雷に打たれたようにその場から動けず、俺はただ固まったまま彼を凝視してしまう。
「いや?全く知らん」
ふい、とすぐ興味なさげに視線は逸らされて、俺の横をあっという間に彼は通り過ぎていく。
俺はかなしばりにあったように動けなくて、その場に突っ立ったままだった。
心臓が破れそうなほど早鐘を打っていて、目が合っただけなのになんだかもう泣きそうだ。
だって彼がほんの一瞬でも俺を見てくれた。
たった一秒でもその目に俺を映してくれたことがたまらなく幸せで、どうしようもなく嬉しい。
自然と呼吸が浅くなって、いつのまにか握りしめていた拳にはじっとりと汗が滲んでいる。
少しの余韻に浸ってからハッとして後ろを振り向いたら、彼ではなくその隣の友達と目が合った。
「はーやべ、目合っちった。イケメンすぎんだろ。俺プリンスにだったら抱かれてもいいわ」
「気持ちわり。勝手に掘られてろ」
なんの会話をしているのか分からないけど、俺もいつかあんなふうに高瀬くんと話をすることが出来るんだろうか。
顔を見るだけでこんなにガチガチに緊張していて心臓も壊れてしまったんじゃないかと思えるほどおかしいのに、やっぱり友だちになるなんて敷居が高すぎるのかもしれない。
それでもどうしたって恋い焦がれてしまう。
自分は彼を見るために生まれてきたんじゃないかと思えるほど、高瀬くんを見ると幸せで堪らなかった。
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