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受験戦争が終わって、結果はまだだったけどそんなことより俺は高瀬くんと一緒にいたかった。
そこから卒業式までは時間の許す限り一緒にいた。
寂しい思いをさせないように、たくさん彼の笑顔を引き出せたらとネットや雑誌を調べに調べて色んな場所へ彼を連れ出した。
だけど卒業式の一週間くらい前からどうしても彼の表情が優れなくなってしまった。
もちろん本人にそのつもりはなくて、見た目にも本当によく見ていないと分からない変化だ。
それでももうずっとひたすらに高瀬くんを見続けることが趣味の俺には、彼の様子がいつもと違うことは分かっていた。
それはどう考えても卒業式が近づいているからで、俺に別れを告げることに心を痛めているんじゃないかと思った。
俺で遊ぶからと言って大切な高校時代を俺にくれたけど、彼は言葉の通り本当にずっと一緒にいてくれた。
受験勉強中もたくさん気遣ってくれて、終わったらあんな大雪の中俺に会いにきてくれた。
本人に言ったら絶対に怒られるから言わないけど、彼はとても寂しがりやさんできっと俺と離れることを惜しんでくれている。
俺のせいでこんなに不安定な気持ちにさせてしまっているのに、それでも高瀬くんが少なからず俺のことを好きになってくれた事を知れてすごく嬉しかった。
そして、卒業式前日の最後の一日。
その日高瀬くんはもうずっと上の空で、だけど呼びかけると俺の服を掴んで離さなかった。
それでもその顔は気丈で少しも崩れることはなくて、俺がどれほど彼につらい思いをさせているのか、どれほど苦しい想いをさせてしまっているのかと知ってたまらなく心が痛かった。
俺を選んでくれれば絶対に後悔はさせないし、絶対に幸せにしてみせるのに。
どうか、どうか俺と一緒にいてほしい。
高瀬くんが少なからず俺を好きになってくれたことには気付いたけど、それでも彼が俺に別れを告げるのが変わらないことはもう分かっていた。
「高瀬くん、あの…。明日のことだけど――」
卒業式後に教室で待っていてほしいと伝えようとしたら、ビクリと大きく肩が跳ねる。
繋いでいた手に力が入って、俺は慌ててその身体を強く抱きしめた。
高瀬くんの手が俺の背に回って、いつもより酷く体温の下がった身体が俺に縋り付く。
どうしようもなく心が震えて、この人を失いたくないと何度も思った。
出来ることならこのまま彼を連れ去ってしまいたい。
どこかに閉じ込めて、もう俺から離れるなんて言わせないようにしてしまいたい。
怖かった。
本当は俺もものすごく怖くて、いつもみたいにたくさん泣いて嫌だ離れたくないごめんなさいと彼に自分の気持ちを押し付けてしまいたかった。
だけどそれをしてしまったら、俺が高瀬くんのためにしてあげられる唯一の機会を奪ってしまうことにもなる。
俺は高瀬くんからたくさんの幸せを貰って、たくさんの初めての感情を貰って、それなのに彼にまだ何も返してあげられていなかった。
俺はいつだって彼のことが大好きな気持ちだけで、本当にそれだけで何も持ってなかった。
こんなにたくさんの幸せを貰ったのに、最後は彼をこんなに身体が冷たくなるほど苦しめることしか出来なかった。
この人のために俺が何をすべきかは、もう分かっていた。
俺の身体を掴んで離さないけれど、それでも俺に涙も弱みも見せず文句の一つすら言わない愛しい人を見下ろして、優しく口元を綻ばせる。
――高瀬くん、大丈夫だよ。
俺が全部、代わってあげるからね。
心の中でそっとそう呟く。
もう涙は出なかった。
ただ、彼の苦しみを取ってあげたい。
大事な、本当に大事で愛して止まない人にもうこんな思いを少しだってさせたくない。
一番怖い日は、俺が全部代わってあげるから。
そう、俺が一番怖いのは高瀬くんが俺からいなくなることじゃない。
何よりも高瀬くんがつらく苦しい思いをすることだった。
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