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翌日、午前中を奏志とのんびり過ごしながら、一応今日の進路説明会で話すことを二人で考える。
とはいえ奏志は何も考えなくても本番は強いし、コイツが失敗するのなんて変に意識した俺の前だけだ。
「俺は簡単な質疑応答程度って言われたけどさ、実際なんか一言言えとか絶対あるよな。どうすっかなー」
4月からの怒涛の営業職のおかげで人前で話し慣れてないことはないが、大勢の前で話すとなるとまた別だ。
特に高校では堅苦しいことなんて一つもやってこなかったし、教師達にガン見されてるのかと思うと地味に緊張する。
「ふふ、大丈夫だよ。困ったら全部俺が代わりに答えてあげるから安心してね」
「アホ。お前が口挟んできたら逆に変に思われるだろ」
「梅乃くんが困ることはしないよ。でももしもの時はちゃんと助けるから、何も緊張しなくて大丈夫だからね」
コイツなんて軽く演説まで頼まれてるっつーのに、なんでこんなに余裕なんだ。
ムカつくけどこういうところはマジで格好良い。
説明会は午後からで、時間を見て少し早く俺達は家を出た。
奏志と一緒に学校へ行くのは本当に久しぶりだ。
朝の通勤ラッシュでやたら触ってくる奴がいるから痴漢かと思ったら奏志なのはもはやデフォだ。
とはいえ時間も時間で、ガランとした平日昼間の電車内を二人並んで座りながら目的地へと向かう。
三年間通ってきたのに、なんだかもう懐かしい気持ちになっている。
なんとなく過ごして終わるんだと思っていた高校生活は、奏志のおかげで見事に一変させられた。
「ん?どうした?」
ふと隣を見ると、どこか奏志がソワソワしている。
俺になにか言いたいことがあるようで、だが切り出せず迷っているらしい。
一体何なんだ。
「あ、えっと。七海くんに会えるかな」
「さーな。会ったとしてもゆっくり話してる暇なんてなさそうだけどな」
「七海くんは特進科だから…もうすぐ部活の引退試合の時期だね」
「へー」
そういや去年の奏志の引退試合も今頃だったか。
ヒビヤンと貞男と三人で見に行った思い出がある。
キャーキャー言われまくって軽くアイドルのコンサートかよってレベルに体育館内が阿鼻叫喚になってたっけ。
「み、見に行こうかなって思ってるんだよね」
「あー、行ったら喜ぶんじゃね。お前七海に懐かれてるもんな」
「そ、そうかな。七海くんはみんなと仲良しだから…。あ…えっと。梅乃くんも七海くんと仲良しだもんね」
「別に俺はただの先輩だけど」
「そ、そんなことないよ。梅乃くんも来たら七海くんきっと喜ぶんじゃないかなぁ」
そう言って奏志はどこか緊張した面持ちで視線を彷徨わせている。
なるほど。
何をソワソワしてんのかと思ったらそういうことか。
つまり七海の引退試合を俺と一緒に見に行きたいってわけだ。
だったら最初からハッキリとそう言え。
ちょっと待ってみたが、奏志は言おうと思って押し黙って、それでもやっぱり言おうとして唇を噛み締めて、とまるで告白寸前の女子みたいな態度で一向に切り出さない。
そんな言いづらいことかよ。
というかコイツはいまだに断られるかもだとか迷惑かもだとか思ってるのか。
奏志が行きたいと思った場所には俺だって行ってやりたいし、普通に考えて好きな奴と出かけることを断ったりなんてしない。
この俺が認めたくないがケツまで掘らせてやってんのに、なんでコイツはこういつまでも俺に対して自信がないんだ。
それって俺がそれだけコイツに安心感をあげられてないってことになるのか?
え、俺のせい?
「…お前さ」
もうちょっと自信もてよ、と言ってやろうとしたらちょうど電車が駅に着いた。
中途半端に話が終わって、学校へと続く懐かしの駅へと俺達は降り立つ。
「梅乃くん、見て。懐かしいねっ。一緒に歩いたよねっ」
見慣れた売店やら何度も通った懐かしの通学路を見て、奏志がキャッキャと興奮したように俺に笑いかける。
コイツ可愛いな。
どうやらさっきまでの話は一先ずどっかいったらしく、今は俺との思い出の道に夢中らしい。
まるで某大型ネズミ遊園地に初デートで来た女子みたいなはしゃぎ方だ。
良かったな、と笑ってやりながら通学路を歩き、学校へたどり着く。
久しぶりの校門を通り抜けて、だけど昇降口ではなく管理棟の入り口へ。
上履きじゃなく来客用のスリッパに履き替えて校内へ入ると、やっぱりもう部外者なんだな、なんて気持ちになる。
一先ず職員室へ向かって、お互い担任へと挨拶に行く。
4ヶ月じゃ変わりようもないが担任は相変わらずで、最近の近況やら昔話なんかで少し盛り上がる。
俺が営業職に向いてると言って今の会社を薦めてくれた担任には、高校時代はなんとも思っちゃいなかったが今はそれなりに感謝もしている。
一通り会話を終えると、説明会の担当教師を呼んでくると担任は席を立った。
ちらりと奏志を見れば担任どころか教頭や校長まで寄って話をしている。
さすが一流大学へ入った奴は扱いが違う。
説明は応接室ですると聞いて、一旦職員室を出て奏志が来るのを待つことにした。
ふと窓の外を見ると体育館が見えて、いつだったかの練習試合で顔面でパスボール受けてた奏志を思い出す。
アレは今思い出しても中々の珍プレーだったな。
更に視線をずらすとHR棟の昇降口が見えて、体育の日に長距離走サボって大雨に降られた俺を奏志が迎えに来てくれたな、なんてことも思い出す。
きっとこの学校のどこを見ても奏志との思い出はたくさんあって、そう気付いたら自然と表情が緩む。
実は俺も結構はしゃいでるのかもしれない。
「たーかーせ先輩っ」
不意に聞き覚えのある声が廊下に響いた。
同時に廊下を駆け抜けるダッシュ音が響き、嫌な予感と共に顔を振り向かせる。
「うわっ。七海っ」
年中無休で元気いっぱい、無邪気で人懐っこい犬みたいなクセにその実ただの変態野郎。
思いっきり走り込んできた七海にタックルされる勢いで抱きつかれた。
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