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その後俺は帰らずに、体育館から少し離れた場所に座って真島を待っていた。
同じように体育館の入口付近では、真島を待っているだろう女子が見える。
だが時間が遅くなるのに比例して、次第に数が減っていった。
ここにいる女子は、みんな恋焦がれて真島を待っているんだろう。
何のイベント事もないのに差し入れらしい紙袋を手に持っている姿に、なんとなく微妙な気持ちになる。
もう何度も思ったことだが、本当にあの真島が俺を好きだなんておかしな話だ。
思ったより真島を待つ時間は長く、一分一秒が遠くに感じられた。
しばらくして体育館の扉が開き、部活を終えたらしいバスケ部員が出てくる。
ワッと待っていた女子が入り口に駆け寄っていき、とりあえず落ち着くまで待っているかと遠目にそれを眺める。
数人の生徒の後にようやく真島が出てきて、さっそく女子が群がる。
が、真島はなぜか一瞬で俺の姿に気付いた。
まさかあいつ俺にGPS仕掛けてねーよな。
「な、なんでいるのっ」
少し遠い所にいたのに、真島は話しかける女の子の声を全部無視してこっちに駆け寄ってきた。
顔には出さないが、それをどこか嬉しいなんて思っている自分がいて驚く。
優越感でも楽しんでいるわけでもなく、素直にそう思っていた。
「弁当。昼食わなかったから食いに来た」
「――えっ!」
真島が心底驚いたって顔で、目を丸くする。
あっという間に顔を紅潮させると、ぶるっと身体を震わせて何か耐えきれないとでもいうように口を開く。
「…す――」
「ちょっと待ったっ」
慌ててその口に手の平を押し付ける。
こいつ今大声で好きだって言おうとしただろ。
こんな周りに人がいて、しかも女子に注目されてんのにそんな事言われたらマジで学生生活が終わる。
「…ご、ごめんっ。つい…」
「お前ちょっと気をつけろよな…」
はあ、とため息を吐いたが、真島はそれでも堪えきれない様子で口元を緩ませる。
この様子なら昼のフォローは必要無さそうだ。
が、結局まだ時期的に暑いし悪くなっているかもしれないから、と真島は弁当をくれなかった。
言われてみればそうか。
どれくらい弁当が持つのかなんて、気にしたことなかった。
「か、代わりに今日もご飯作りに行っちゃダメかな。…あっ、その、もう変なことしないから――」
なんかアタフタしている。
というか俺が弁当食わなかっただけで、代わりも何もないと思うんだが。
昨日の出来事を思い返せば少し戸惑いもあったが、それでも真島の飯は食いたい。
「…まあ、お前が疲れてなければ」
「全然疲れてないよっ」
そう言って意気込むように両手を握る。
全く料理をしない俺としてはどんな簡単なモンでも作ってくれればそれで嬉しいんだが、真島はいつだって手を抜かない。
並んで一緒に帰りながら、俺はもう一つ聞きたかったことを思い出した。
「…そういやお前、先輩と話したんだって?」
「あ…えっと、うん。話したよ」
真島は少しビクリとしたが、そこまで何か気にしている様子はなかった。
コイツ分かりやすい奴だから、きっと何か不満があったら一気に顔に出ているはずだ。
「あー…、何話したんだ?」
まあこの様子から見れば、他愛もない世間話だろう。
少しホッとしながら聞いてみれば、真島は言い淀むように視線をそらす。
「…た、高瀬くんと付き合ってた時のお話」
「――はあ!?」
先輩思いっきり真島に嫌がらせに行ってんじゃねーか。
それでも俺が驚いたのは先輩が話をしに行った事よりも、真島の態度の方だった。
付き合ってた時の話なんか、正直毎日家に呼んでいたくらいでどこかへ行ったなんて記憶もあまりない。
だが真島のことだからそんな話を聞かされたらへこむだろうと思っていたが、俺の自惚れだったか。
「…まあ、お前が気にしてないなら良かったよ」
「き、気にしないなんてありえないけど…。でも高瀬くんが大事にしてた人だから」
「え?」
「高瀬くんが大事にしていた人の事を、悪くなんて絶対に思いたくないから」
真島は真っ直ぐに前を向いて言った。
呆れるほど純粋で困る、なんて思ったのは初めてだ。
「あ…でもやっぱりその、妬いてるのはもうすごく妬いてるんだけど。で、でも今付き合ってるのは俺だし…」
少し格好良いと思ったのに、あっという間にゴニョゴニョとなんか言っている。
女みたいに人のこと詮索したり、ともすれば簡単に大泣きするくせに、変な所図太いらしい。
真島が言うように先輩を大事にしていたかどうかと言われると、正直微妙だ。
邪険に扱った覚えはないが、好きだったかと言われたらどうだろうとも思える。
先輩と俺は境遇が似ていて、お互い学校終わりの一人でいる時間を持て余していた。
だからこそ夜も自由に会えたし、暇つぶしに付き合うにはお互い絶好の恋人だった。
「…お、俺は高瀬くんが一緒にいてくれるだけで、今夢みたいだから。それに…その…」
「あ?なに」
何か言おうとした真島が、ハッとしたように押し黙る。
「な、なんでもない。これはやっぱり違うかもっ」
「はぁ?中途半端な言い方すると気になるだろうが」
さっさと言え、と目を細めたら真島は焦ったようにギュッと目を瞑って顔を赤くした。
「さ、最近高瀬くん、いっぱい優しくしてくれるから…。俺調子に乗っちゃって――」
言い終わってから、無駄にごめんと謝られまくった。
調子に乗ったってのはわかるが、最近俺が真島に優しくした記憶なんかない。
むしろ今日弁当食わなかったし、昨日キスだって拒んだ。
「…俺何かお前に優しくしたっけ」
「い、いっぱいしてくれてるよっ。今日も待ってくれてたし、夕飯誘ってくれたり、それから…先輩のことも気にするなって言ってくれて。それからね…」
真島は俺の行動で、自分が嬉しかったことをたくさん話し続けた。
それはよくもまあ、そんなに覚えているなと感心するほど本当にたくさんあった。
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