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日曜日はここ最近の悪天候も噓のようにカラッと晴れていて、少し暑いが絶好のお出かけ日和だった。
とはいえ今日の試合はとある総合体育館で行われるため、全く天候関係ないが。
バイト仲間に変わってもらって休みを手に入れた俺は、ヒビヤンと駅前で集合して真島の引退試合を見に行くことにしていた。
「なんでお前いんの」
「俺が呼んだ。女みたいな顔の奴一人くらいいたら華になるかなと」
「いやならねーだろ」
ヒビヤンの言葉にツッコミを入れたら、ゲシっと貞男に蹴られた。
貞男は妙に偉そうにフンと鼻を鳴らす。
「普通科の奴に俺が付き合ってやるだけありがたいと思えよな」
「その割には大荷物だな」
見れば肩に下げている鞄が重そうだ。
「弁当だよ、弁当。観戦には弁当が付き物だろ。お前らの分も作ってきてやったからな」
ノリノリじゃねーか。
そして鼻歌でも口ずさみそうな勢いで先立って歩き始める。
俺とヒビヤンは顔を見合わせて、思わず苦笑しながら肩を竦ませた。
「つか貞男と連絡先いつの間に交換してたんだよ」
「え、知らねーよ。ただここ最近毎日お前に会いに来てたから、帰り掛けに誘っといた」
「それは思い切ったな」
「弁当持ってきてくれてるし結果オーライだろ」
「確かに」
そういえば弁当てまさか貞男の手作りだろうか。
真島といい特進科の奴はみんな料理が出来るんだろうか。
総合体育館はもうごった返していて、どう考えてもギャラリーの数が異常だった。
どうやら既に場所取りは始まっているらしく、女子の黄色い声があちらこちらで飛び交っている。
とりあえず中に入ったら、館内では既に他校のバスケ部員が試合前のウォームアップをしていた。
今日は親善試合らしく、何校か集まって試合が行われるらしい。
二階の観客席へ腰を降ろすと、貞男がソワソワと騒ぎ始める。
「はー、もうどうしよう。奏志の最後の試合とか俺もう無理泣けてきた」
「バカじゃねーの」
「はぁ?なんだとこの冷酷野郎」
「はいはい、二人共いい子だから仲良くしような」
俺と貞男の間に割って座ってきたヒビヤンが、俺達二人の両肩をポンと叩く。
お前はあれか。保育士か何かか。
とりあえず貞男が戦前の腹拵えだと言い始めて、持ってきた弁当を広げ始める。
「おお、すげーな」
「へえ。圧巻って、こういう事を言うんだな」
「そうだろ。お前らありがたく食えよ」
貞男の弁当は、まさかの全部おにぎりだった。
男らしすぎんだろ。
腹にたまるからおにぎり大好きだが。
それから少しの雑談の後、待ちに待った我が校のメンバーが出てきた。
相変わらず真島人気はとんでもなく、入ってきただけでドカッと体育館内が湧く。
というかよく見たら既に泣いてる子も多数いて、ふと隣を見たら貞男も鼻水を垂らして泣いていた。
はえーよ。
白黒を基調としたユニフォームに白地に水色のラインというジャージを引っ掛けた真島は、今日も爽やかでいてギャラリーの声援をものともしないイケメンぶりだった。
事前にメッセで試合を見に行くことは伝えておいたから、きっと真島が俺のことを見つけるのは時間の問題だろう。
と思ってる間にもうこっちを見た。
今日も真島の俺センサーは絶好調らしい。
その表情が赤く色づき至極嬉しそうな表情に変わるが、俺の言いつけを守っているのか大袈裟に振る舞うことはなかった。
だが不意に跪いたかと思うと、足首に手を当てて俺を見る。
なにやってんだアイツは。
一度ポカンとしたが、次の瞬間、あいつの意図に気付いてぶわっとつま先から頭の先まで込み上げるような熱が駆け抜けていった。
真島が触れたのは、足首に巻かれたミサンガだった。
いつもは制服だから見えないが、今日はユニフォームだからしっかりと見えている。
それは俺にしか分からない、真島からのサインで。
突然のことに動揺する気持ちもあったが、俺は拳を握るとぐっと前に出してそれに応えてやった。
真島が付けてくれたミサンガが、ふわりと揺れて俺の手首を擽る。
真島は綺麗に微笑んでから何事もなかったように立ち上がると、チームメイトの元へ戻っていった。
「…あいつ」
「えっ、なに?」
「なんでもねーよ」
ヒビヤンの問いかけにぶっきら棒に返して、熱くなった顔を冷ますように息を吐き出す。
やっぱりアイツは、いつだって俺を見てくれている。
今の態度を見ている限り、真島が俺以外の子に夢中になってる素振りなんか全く感じられなかった。
ともかく今日は真島の最後の試合だし、しっかり応援してやろうと俺は体育館を再び見下ろした。
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